貴金属リサイクル

1.貴金属のリサイクル原料

 貴金属の価格はリサイクル費用に比較して高価であるために,昔からリサイクルが活発に実施されている。品質の良い宝飾品の貴金属スクラップは通常そのまま再溶解してリサイクルしており,その際に生成した溶解残渣についても貴金属が含有しているため,別途製錬原料としてリサイクルしている。宝飾品の貴金属の合金についても,それぞれ種類毎に集めて再溶解することが多いが,合金成分や濃度が不明瞭な場合には集めて製錬して,純金属にリサイクルしている。

 また,歯科用合金,各種触媒及び写真フィルムにも貴金属は使用されており,比較的品質の安定したものは,専用のリサイクルプロセスにてそれぞれのサイクル業者が回収している。尚,写真フィルムに使用されてきた銀については,デジタルカメラが汎用化し,写真フィルムの用途が激減している。一方,近年電子機器の接点材料としての用途は急速に増加していることから,1980年頃からリサイクルされるようになり,現在では各社が競ってリサイクルしている。

表1.貴金属を含有する製品

2.貴金属リサイクルの現状

 現状,貴金属のリサイクルは活発に実施されているが,これは貴金属の持つ特徴である精製の容易さと金属価格が高いことに起因する。宝飾品,歯科用合金等については,貴金属の含有濃度が高いことから,昔から再溶解を主体にリサイクルされてきたが,近年触媒や電子機器部品等の低濃度含有物についてもリサイクルされるようになっている。

 特に,電子機器部品に含有する金,銀,パラジウム等の貴金属は,主としてめっき等の表面処理材料として使用されていることから微量であり,使用済み宝飾品などの高濃度貴金属原料からのリサイクル方法では,経済的に回収できない。

 従って,電子機器部品からの貴金属のリサイクル方法は次の2種類に大別される。比較的高濃度に貴金属を含む電子機器部品は湿式処理プラントを所有する貴金属リサイクル会社によりリサイクルされることが多い。貴金属の国内大手湿式処理会社には,松田産業,田中貴金属,アサヒプリテックなどが挙げられる。一方,低濃度に貴金属を含有する電子機器部品は,直接リサイクルすることが経済的に困難なことから,銅製錬所または鉛製錬所にて濃縮後,貴金属を精製する方法で,非鉄製錬会社が実施している。積極的に貴金属をリサイクルしている非鉄製錬会社としては,JX金属,同和鉱業,三井金属及び三菱マテリアル等が挙げられる。少し古いデータではあるが,表21) に2006年度の日本国内の貴金属リサイクル状況を示す。表2の通り,日本国内で実施されている貴金属のリサイクル量は高濃度品を取扱う湿式処理会社が多い。

表2.日本国内の貴金属リサイクル状況

3.貴金属の需要と供給

(1)金の国際需給バランス

 貴金属地金の製造における原料ソースとして貴金属スクラップの役割は大きい。表3.世界の金の需要と供給量2) を示す。表3より分かる通り,金の生産の25~30%はリサイクル原料である。銀,白金,パラジウムの場合も金と同様にリサイクル原料の割合は多い。

表3.世界金の需要と供給量

(2)金の国内需給バランス

 表42) に日本の金の需要と供給量を示す。2016年日本国内の金の供給については,鉱石から生産した新産金が76.1トン,再生金が55.0トン国内の流通品が202.7トンで,輸入が4.7トンとなっている。従って,金生産の原料としては鉱石製錬が58%で,使用済み製品のリサイクルが42%とリサイクル比率は世界と比較して高い。供給合計338.5トンに対して,内需は電気通信・機械部品27.8トン,歯科・医療用8.5トン,めっき用2.4トン,宝飾用8.7トン,美術工芸用1.0トン,メダル用0.2トン,その他9.9トンの内需合計58.5トンであるが,輸出は196.8トンと比較的多い結果となっている。

 金,銀の原料ソースとして貴金属スクラップの資源割合は少なくないが,白金,パラジウムの場合は日本国内では鉱石出の製品は少なく大部分がスクラップ出である。白金,パラジウムの鉱石出が少ない理由は,白金族元素の鉱石は南アフリカとロシアに偏っており,南アフリカは国外に鉱石を出荷することを禁じているため,日本国内には輸入できないためである。従って,日本国内での白金族元素の製造においてはスクラップが無いと,白金族元素の製造はできないとも云える。その意味で都市鉱山が最も重要な貴金属資源ソースとなっており,資源の枯渇した日本においては,リサイクルの促進が不可欠である。

表4.国内金の原料と需要内訳

4.貴金属の価格推移

  2000~2018年までの間の金,白金及びパラジウムの価格推移(US$/toz)を図1に示す。2000年以降徐々に価格で上昇し,2012年には金,白金価格は1600 US$/tozを超えて,最高価格を示すが,その後下落し。現在金は1300 US$/toz,白金は940 US$/toz前後の値となっている。パラジウムは2003年に200US$/tozまで低下した後,価格上昇に転じて上昇を続け,現在1000 US$/tozまで上昇している。いずれの貴金属価格もこの間大幅に上昇している。

図1.金白金パラ価格推移

5.電気・電子機器類のリサイクル技術

 近年,電気・電子機器類の用途が広がっており,工業用の機器はもとより,様々な家庭用機器として使用されるようになってきている。家庭内にある身近なこれらの機器には,ICチップ,コンデンサー,プリント基板のような電子部品が搭載されており,これらの部品の性能を向上する目的で,様々な種類の貴金属が使われている。

 このような電気・電子機器は比較的製品寿命が短く,数年後には廃棄物として家庭より排出されている。それぞれの電気・電子機器に含まれる貴金属量は少量ではあるが,日本国内では莫大な数の機器が排出されることから,貴金属資源の観点では,大規模鉱山に匹敵し,都市鉱山とも云える。

 銅・鉛製錬所では,この都市鉱山に着目して,1980年代より銅・貴金属のリサイクルに取り組んできた。現在,廃電子機器を解体することにより分別された基板屑及び機器部品屑を年間数十万トン程度リサイクルしている。

(1)廃電子機器の解体・分別

 代表的な廃電子機器としてパソコンや携帯電話が挙げられるが,廃電子機器は様々な素材で構成されている。パソコンを構成する素材の例を表33) に示す。

表5.パソコンを構成する素材例

   表3より分かる通り廃電子機器には様々な素材が含まれることから,廃電子機器のリサイクルでは先ず廃電子機器を分解し,素材毎に選別している。各素材を原料としてマテリアルリサイクルするためには,効率的な解体分別が必要である。通常,廃電子機器の解体においては,人手により解体し,プラスチック,鉄,ステンレス及びアルミニウムなどの素材毎に分別される。機器内部にある多種類の素材で構成されている小型部品は,人手による解体選別では手間がかかることから,機械により選別されることが多い。機械による解体分別では,破砕機,磁力選別機,アルミニウム選別機及び比重選別装置等が使用されており,低コストにて素材毎の選別が実施されている。一般に,人手による手選別に比べて機械選別は選別精度が劣り,回収素材の品質は低下する。

写真1.梱包品の分別作業

写真2.廃電子機器の手解体作業

写真3.廃プラスチック屑

写真4.鉄屑

写真5.アルミニウム屑

写真6.ステンレス屑

(2)貴金属スクラップのリサイクル方法

 廃電子機器の解体によって分別されたプリント基板類には貴金属が含有されていることから,貴金属スクラップとしてリサイクルされている。一般に貴金属が比較的高濃度に含有しているスクラップは,湿式リサイクルプロセスで処理されている。湿式リサイクルプロセスは小規模でも操業可能なため,数多くのリサイクル業者がこの方法で貴金属回収を行っている。東南アジアや中国におけるリサイクルでも本法が実施されている。一方,貴金属を低濃度に含有しているプリント基板類は 非鉄製錬を利用したリサイクル法で貴金属を濃縮してリサイクルしている。銅製錬や鉛製錬においては,銅,鉛に貴金属が吸収され,効率的に貴金属が濃縮される。最近では,国内銅製錬所は積極的に貴金属のリサイクルに取り組んでおり,銅製錬の重要な収益源ともなっている。

写真7.金めっき基板屑

写真8.低品位基板屑

(3)湿式リサイクル法

 湿式リサイクル法では,プリント基板等の貴金属スクラップを硝酸,王水またはシアン溶液で浸出し,溶液中の不純物成分を浄液工程で除いた後,電解採取あるいは電解精製にて,貴金属を回収している。貴金属の選択浸出には古来シアンが有効活用されてきており,現在もリサイクルでは多用されているので,シアン法について以下に説明する。

 シアン化ナトリウム又はシアン化カリウムは金及び銀と錯イオンを形成して選択的に溶解する反応を利用した製錬法であり,青化法と呼ばれている。貴金属をシアン化物として選択的に浸出し,浸出されたシアン化物を活性炭にて吸着して,シアン溶液から貴金属を分離している。シアン溶液は通常スクラップからの貴金属浸出に繰り返し利用される。尚,シアンは小量でも人体に有毒なので,シアンを含む排水や排ガスの漏洩には特別な配慮が必要である。シアンによる環境汚染事故も数多く発生しており,環境汚染の防止の徹底が重要である。特に,シアン溶液の廃棄処分は,確実に実施する必要がある。一般に,1000℃以上の温度で,焼却すればシアンが分解すると云われているので,高温での焼却処理が望ましい。

 貴金属を吸着した活性炭を焙焼すると,貴金属が残渣として残る。残渣は貴金属粉なので,溶融してアノードに鋳造して,電解精製する。尚,貴金属を吸着した活性炭から貴金属を酸浸出して活性炭を再利用することもある。

図2.青化法リサイクルプロセス

(4)非鉄製錬を利用した貴金属リサイクル

 非鉄製錬を利用したリサイクルプロセスでは,銅製錬や鉛製錬により効率的に貴金属が濃縮される。最近では,国内銅製錬所は積極的に貴金属のリサイクルに取り組んでおり,銅製錬の重要な収益源ともなっている。銅製錬工程において,貴金属が効率的に濃縮する反応を示すスラグとマット間の分配係数の実験値と操業値を比較して図3 4)に示す。金の場合はLs/m=0.0001~0.001,銀の場合はLs/m =0.001~0.01及びパラジウムの場合はLs/m =0.0001~0.001であることから,それぞれ製錬炉内において,貴金属はマットに99~99.99%吸収され,濃縮されることが分かる。尚,図中の実験値の値は,早稲田大学の山口勉功教授の研究データ5),6,)7),8)で,操業データはJX金属(PPC)佐賀関製錬所の操業データである。

図 3.銅製錬における貴金属の分配係数

   また,銅製錬と鉛製錬を利用した貴金属スクラップの処理プロセスのフローシートを図4に示す。廃電子機器から回収された貴金属スクラップにはプラスチック等の有機物が含まれているものが多い。これらの部品をそのまま銅製錬炉に装入して溶融処理すると,プラスチックがハイドロカーボンの形で揮発し,完全に燃焼する前に硫酸製造プラントに飛来する。その際,一部のハイドロカーボンが硫酸中に溶解して,硫酸が着色し,硫酸の規格外品が発生することがある。また,プラスチックには塩素や臭素が含有されており,銅製錬設備を腐食させることから,焼却前処理により有機物を除いた後に銅製錬処理している。鉛製錬でも同様なので,焼却前処理により有機物を除いた後に鉛製錬処理されることが多い。

   焼却前処理された貴金属スクラップの灰を銅や鉛の製錬炉で溶融すると,図3に示した通り,貴金属元素は銅及び鉛に吸収され,最終的に粗銅及び粗鉛中に移行する。粗銅,粗鉛をアノードに鋳造し,電解精製を行うと,貴金属はアノードスライム中に濃縮される。このアノードスライムを貴金属精製設備にて処理し,金,銀,白金,パラジウム等の貴金属をそれぞれ地金に精製している。これが,非鉄製錬を利用した貴金属リサイクル技術で,金の場合10g/t程度の低濃度の貴金属スクラップでも低コストで効率的に回収できる特徴がある。貴金属の乾式製錬法と湿式製錬法の詳細については,金の製錬頁を参照。

図4.銅製錬及び鉛製錬を利用した貴金属スクラップ処理法

<貴金属スクラップ処理時の銅製錬プロセス>       <貴金属スクラップ処理時の鉛製錬プロセス>

< 引用文献 >

1) 矢野経済研究所レポート「金属資源リサイクル市場」pp.43-46

2) 鉱物資源マテリアルフロー2017(Thomson Reuters,「GMS GOLD SURVEY 2017」

3) Junzo Hino, PETROTECH 第32巻,第10号,2009,pp.31-35

4) J. Hino, S. Akagi and K. Sakamoto, The 9th International Symposium on East Asian Resources Recycling Technology, October .29, 2007, Sendai, pp.428-431

5) G. Roghani, Y. Takeda and K. Itagaki, Metall. Mater. Trans. B, 31B, (2000), pp.705-712

6) K. Yamaguchi, H. M. Henao and S. Ueda and K. Itagaki, Shigen-Sozai annual meeting, Muroran, (2005), pp. 247-278 (in Japanese)

7) K. Yamaguchi, F. Tanaka, J. Hino, S. Ueda and Y. Takeda, Mater. Trans. JIM, (in press )

8) Y. Takeda and G. Roghani, Proceeding of 1st international conference on PMP : H. Henein and T. Oki Eds., Honolulu, (1993), pp. 357-360