電池リサイクル

1.リチウムイオン二次電池の概要

 情報産業の急速な発展によってパソコン,タブレットや携帯電話などのモバイル型の電子機器が普及してきており,小型の高性能二次電池は必要不可欠になっている。そのため,従来の鉛蓄電池に代わって,ニッケル・カドミウム電池,ニッケル水素電池などの各種の小型二次電池が開発されてきたが,ソニー社が世界で初めて開発したリチウムイオン二次電池は充放電特性に優れ,また大容量化にも適している。そのため,特殊な用途を除いて,リチウムイオン二次電池が広く利用されるようになってきている。また,地球温暖化対策として二酸化炭素の排出量削減が社会問題となっているが,その対策の一つとして,ハイブリッド車,電気自動車が期待されており,これらの大容量の二次電池としてリチウムイオン二次電池が導入されており,その需要が急増するものと期待されている1)

 リチウムイオン二次電池には多くの種類があり,パソコンや携帯電話用の小型電池には,コバルト酸リチウム正極材が使用されている。コバルトは価格が高い金属であることから,比較的小型電池の回収は行われており,廃電池からのコバルトのリサイクルも実施されている。しかし,今後の需要の急増が期待されている自動車用のリチウムイオン二次電池には,コバルト酸リチウムの正極材ではなく,ニッケル系,マンガン系及び三元系などの複合正極材が導入される可能性が高く2,リサイクルシステムの構築が今後の課題となっている。

 リチウムイオン二次電池には,多種類の金属が使用されている。これらの金属を効率的にリサイクルするためには,粉砕・選別,濃縮・分離及び精製技術が重要であり,電池の構成に応じた最適なプロセスを確立する必要がある。今後需要の急増が期待される自動車用の二次電池のリサイクルに焦点を合わせて,リチウムイオン二次電池のリサイクルシステムを解説する。

2.リチウムイオン二次電池の構造と種類

 リチウムイオン二次電池は小型で大容量の電力を供給できる上に,充放電においてメモリー効果がないという優れた二次電池で,携帯用の二次電池として用途が急速に拡大している。リチウムイオン電池の特性を表1に,構造を図1にそれぞれ示す。正極,セパレータ及び負極が層状に積み重ねられて,アルミニウム,鉄,ラミネートフィルムなどの筐体中に収められている。形状には円筒型,角型,ラミネート型などがある。

 正極材にはコバルト系,ニッケル系,マンガン系,三元系及び燐酸鉄系などがあるが,表2に示すように,いずれもアルミニウム箔に塗布して電極板を構成している。自動車用の正極材としては,三元系を改良し,コバルト,ニッケル,マンガンを性能目標に応じて混合した複合正極材も開発されてきている。その他,有機系の正極材などの新しいタイプのリチウムイオン二次電池の開発も活発に行われている3), 4)。しかし,現時点では実用化に至っておらず,リサイクルの観点から魅力がないことから,ここではコバルト系,ニッケル系,マンガン系,三元系及び複合正極材のリチウムイオン二次電池のリサイクルについて議論する。自動車用のリチウムイオン二次電池の例を写真1に示す。また,負極は銅箔にペースト状の負極材を塗布した電極で,各種の負極材の開発が行われているが,現在実用化されている負極には,グラファイト電極とカーボン電極の2種類がある。また,正極と負極の間には,電極を接触させないためにセパレータと呼ばれる樹脂膜が配置されている。その他,電気を流すための端子,ケーブルなどで構成されている。

表1.二次電池の放充電特性の比較

図1.リチウムイオン二次電池の構造例

表2.リチウムイオン電池の正極材

写真1.自動車用リチウムイオン電池

3 電動自動車の動向

 電動自動車にはハイブリッド車と電気自動車があり,近年日本を中心にハイブリッド車の需要が急増してきているが,電気自動車も徐々に普及してきている。ハイブリッド車用の二次電池としては,従来ニッケル水素二次電池が使用されてきたが,最近容量の大きなリチウムイオン二次電池に変わってきている。特に,プラグインハイブリッド車や電気自動車では電池容量が不足するため,リチウムイオン二次電池が使用されている。

 日本では2000年代頃から各自動車会社が競争で電気自動車の開発を行い,リチウムイオン二次電池の性能向上にも各電池会社が取り組んできた。しかし,電気自動車の運転距離を大幅に延長可能で,高速充電が可能なリチウムイオン二次電池の開発がなかなか進まなかったこともあって,2010年代に入って日本では電気自動車の開発がやや低調になり,トヨタ自動車を中心に燃料自動車の開発に方向転換を図っていた。

 しかし,ヨーロッパと中国で,環境汚染対策として電気自動車を導入することが,政策として発表されたことから,現在世界的に電気自動車の実用化に向けて,開発競争が活発になってきている。ヨーロッパ(EU)では2040年にはガソリン車やディーゼル車の販売が禁止されることが決まったことから,イギリス,フランス,ドイツなどで電気自動車の開発が積極的に行われている。中国も都市部の環境汚染が顕著なことから,電気自動車への移行を決定しており,ガソリン車やディーゼル車の使用が禁止される方針が既に発表されている。

 米国ではテスラモーターズが電気自動車の製造・販売を本格的に実施しているが,日本でも日産自動車,三菱自動車及び富士重工などが電気自動車の販売を行っている。世界の主要な自動車会社で,今後本格的に電気自動車の生産が開始されると,大容量のリチウムイオン二次電池が使われることから,リチウムイオン二次電池の需要が急増すると予想されている。

 電気自動車のスケルトンを図2に示す。ハイブリッド車では1台当たり30~50kgのリチウムイオン電池が搭載されているが,電気自動車では更に大きな電気容量が必要となるため,1台当たり200~300kgのリチウムイオン電池が搭載される。このため,必要な正極材料もハイブリッド車では5kg/台であるが,電気自動車では50kg/台と多くなり,使用している正極材を製造するのに必要なレアメタル量も急増することが予想される。前述の通り,リチウムイオン二次電池の正極材として,コバルト,ニッケル,マンガン等のレアメタル,又はその混合物が使用される可能性が高い。ニッケル及びマンガンは特殊鋼などの用途で多量に生産されていることから,電池用の用途が増加しても,資源生産への影響は少ないが,コバルト及びリチウムは電池の需要が主体であり,生産量も年間数万トンしかないため,その影響は大きく,供給不足や価格の高騰などを引き起こす可能性もある。従って,使用済み電池からこれらのレアメタルを効率的に回収し,再び電池原料としてリサイクルする資源循環に対する社会ニーズが高まってきている。一方,リン酸鉄系の正極材の場合は,原料面で資源不足の可能性は無く,リサイクルは経済的に成り立たないことから,産業廃棄物処理となると思われる。

図2.電気自動車スケルトン図

 現在のハイブリッド車,電気自動車及びリチウムイオン電池の国別輸出入金額の上位10カ国を表3に示す。ハイブリッド車は日本の輸出額が最大で,次いでドイツ,韓国の輸出額が多い。輸入は米国,ベルギー,ノルウェーの輸入額が多い。一方,電気自動車はテスラモーターズを代表とする米国の輸出額が最大で,ドイツ,オランダの輸出額も大きい。電気自動車の輸入額はノルウェー,中国,ドイツが多い。また,リチウムイオン電池の輸出額は,中国,韓国,日本の順で多く,輸入額は中国,米国,ドイツの順で多い。

表3.ハイブリッド車,電気自動車,リチウム電池の貿易国上位10カ国

4.LIB電池に使用されるレアメタル資源

 リチウムイオン二次電池のリサイクルを議論する上で,電池材料の需給と価格の動向は極めて重要である。特に,正極材に使用されているレアメタルであるコバルト,ニッケル,マンガン及びリチウムは,電池需要の増加に伴って供給不足や金属価格の上昇が予想される。国内鉱山は既に枯渇していることから,海外のレアメタル資源の動向が国内産業やリサイクル業界に与える影響は大きく,極めて重要となっている。

 Liイオン電池用コバルトなどの需要が最近堅調に伸びてきており,供給不足が心配される状況となっている。Liイオン電池の陽極材料としてコバルト代替材料が研究されているが,現時点ではコバルト離れが進んでおらず,現在も大容量のLiイオン電池にはコバルトが必要となっている。コバルトは銅とニッケルの副産物として生産されており,銅中のコバルトは中部アフリカ(コンゴ、ザンビア中心とするカッパーベルト地帯),ニッケル中のコバルトはロシア,オーストラリア,カナダ,北欧で多く生産されている。本格的な電気自動車用のLiイオン電池の生産が本格化すると,コバルトの需要が更に増加し,供給不足となる可能性は高い。中国は国家が主導してアフリカの資源国に投資して,資源を独占して確保しており,コバルトはその典型的な事例である。中国は最近コバルトの増産が著しく,自国で採掘した鉱石だけでは不足するため,コンゴ,ザンビア等のアフリカの国で採掘したコバルト鉱石を輸入して,コバルトを製錬している。中国のコバルト原料の多くはコンゴから輸入した半製品のコバルトとも言われている。コンゴ政府が昔のように金属コバルトの生産を復活させれば,中国は深刻な原料難に直面することが想定されることから,コンゴ以外の新規プロジェクトへの参加も積極的に推進していると云われている。

 一方,ニッケルもLiイオン電池に使用されているが,ラテライト鉱などの新規プロジェクトからの増産も計画されており,用途の主体がステンレス鋼であることから,当面供給不足の問題は生じないと推測される。

 図3にコバルトとニッケルの地金価格推移を示す。最近,欧州と中国で電気自動車の導入方針が発表したことから,リチウムイオン電池材料の価格が上昇傾向にある。一般に,コバルトは業界が小さいため,需給バランスがタイトとなり易く,投機資金の影響が大きく,今回の電気自動車導入の政策により,コバルト価格は急騰している。ニッケルの場合にも最近価格上昇が見られるが,ニッケルはステンレス等業界規模が大きく,電池需要の影響は小さいため,価格の高騰は生じていない。

図3.ニッケルとコバルトの国際価格推移

① コバルト

    2008年度のコバルトの国内需要を図4に示す。近年,世界的に電子機器用の小型リチウムイオン二次電池などの需要が急増しており,その大部分を国内の電池製造会社が生産して供給していることから,国内のコバルト需要の58.7%が電池用の用途で,最大のコバルト需要である。その他,特殊鋼,超硬工具,管板棒線,磁性材料,触媒などのコバルト需要がある。表4にコバルト資源の埋蔵量と生産量を示す。世界のコバルト埋蔵量と資源生産量の半分近くをコンゴが占めており,世界最大のコバルト資源供給国となっている。次いで,カナダ,ザンビア,豪州及びロシア等が挙げられる。

表4.コバルト資源の生産量と埋蔵量

図4.コバルトの国内主要用途

② ニッケル

    2008年度のニッケルの国内需要を図5に示す。ニッケルの用途としては,ステンレス原料が69%と主体であるが,電気メッキ,合金鋼などの需要も多く,年間23万トンに達している。近年,ニッケル水素電池などの電池用の需要が増加してきているが,ニッケル需要の主体はステンレスなどの特殊鋼原料であり,電池需要の増加がニッケル資源に及ぼす影響は少ないと判断される。

    世界の資源生産量と可採埋蔵量を表5に示す。ニッケル資源の主要生産国はフィリピン,ロシア,カナダ,豪州などで,可採埋蔵量は豪州,ブラジル,ロシアなどに多い。ニッケル資源は比較的分散しており,資源生産における政情不安などの要素は少ないが,近年中国においてステンレスの需要が高まっており,ニッケル価格は堅調に推移している。ニッケル需要の増加に対応して,新規鉱山開発も進んでいることから,当面供給不足などの深刻な資源問題は生じないと想定される。

表5.ニッケル資源の生産量と埋蔵量

図5.国内ニッケル需要 2016年度48.2千トン

③ マンガン

    マンガンの資源生産量と可採埋蔵量を表6に示す。マンガンの資源生産は南アフリカ,中国及びオーストラリアが主要資源国である。日本国内でもかつては鉱石を輸入して電解マンガンを製錬していたが,現在電解マンガンの製錬所は無くなっており,全量を南アフリカ及び中国からの輸入に依存している。

    マンガンの用途の主体は図6に示す通り鉄鋼用の添加材であり,96%が特殊鋼及び鉄鋼生産時の諸性質向上のための脱酸脱硫剤として使用されている2)。近年,電池用の用途も増加しているが,マンガン需要の2%程度に過ぎず,リチウムイオン二次電池の需要の増加によるマンガン資源への影響は少ないと判断される。

表6.マンガン資源の生産量と埋蔵量

図6.マンガンの主要用途  出典JOGMEC資料

④ リチウム

    リチウムの国内用途を図7に示す。リチウムの用途にはリチウムイオン電池のほか,ガラス,潤滑剤,大型冷凍機および触媒などがあるが,近年電池の用途が急増してきている。リチウムの資源には塩湖のかん水と鉱石の2種類があるが,リチウムイオン二次電池用の炭酸リチウムは大半が塩湖かん水より製造されている。

    炭酸リチウムについては,表7に示す通り豪州と南米のチリが生産量,埋蔵量ともに主体となっており,現在リチウム資源の供給は安定している。しかし,リチウムの生産はSQR Solar社(チリ)Chemetall社(ドイツ)及びFMC社(米国)の3社に集約していることから8),近い将来自動車用のリチウムイオン電池の生産が急増すると,リチウム資源の供給不足が生じる可能性も高い。そのため,新たなリチウム資源の開発も急がれており,中国においては既に新規鉱山が開発されている。また,塩湖かん水の新たな資源として,埋蔵量の豊富なボリビアに期待が集まった5)。日本の企業グループもボリビアに炭酸リチウムの生産設備の建設を計画していたが,工業化には課題があり,現時点でまだ実現していない。

表7.リチウム資源の生産と埋蔵量

図8.炭酸Li主要用途(2016年度)

5.リチウムイオン電池リサイクルの現状

(1)レアメタルのリサイクル

 レアメタルは一般に製錬方法が特殊で,リサイクルする製錬所が少ないことから,一部の金属を除いてほとんどリサイクルされていないのが実状である。高濃度原料のみがリサイクル可能であり,低濃度原料は廃棄物として埋立て処分されている。レアメタルの中で,ニッケル,コバルトなどはリサイクルされる割合が高い金属元素である。ニッケルは比較的容易にステンレス原料として処理可能なことから,スクラップや高濃度の滓類が国内の多くのステンレス製造会社及びニッケル製錬会社9でリサイクルされている。JX金属グループでも2008年度にニッケルのリサイクル設備を建設し,現在ニッケル滓からニッケル地金の生産を実施している。

 一方,コバルトは金属価格が高いことから,特殊鋼,触媒及び廃リチウムイオン二次電池は積極的に集荷され,リサイクルされている。特殊鋼スクラップは溶融処理されており,コバルト滓類はUMICORE,XSTRATA及び韓国や中国などの小規模のコバルト製錬会社に輸出され,地金化されている。国内ではJX金属グループや同和鉱業グループ等でリサイクルされている。

   JX金属グループで少量の炭酸リチウムをリサイクルしているが,リチウムイオン二次電池に含まれるマンガン及びリチウムについては,工業規模ではほとんどリサイクルされていないのが現状である。一般に清浄なマンガンスクラップ,滓類については,合金鋼原料,鉄鋼添加剤としてリサイクルされており,純金属には製錬されていない2。この原因はマンガンの地金価格が安く,国内の金属マンガンの製錬所が既に閉鎖されているためである。リチウムについては,現在大規模にリサイクルを行っている工場は世界的にもなく,ほとんど全て資源からの生産である。

(2)小型リチウムイオン電池のリサイクル

携帯電話やパソコン用の小型リチウムイオン二次電池には正極材にコバルト酸リチウムが使用されている。金属コバルトの価格が比較的高いこともあって,集荷された電池は有価物として取引されていることも多く,電池中のコバルトに限ってリサイクルが比較的進んでいる。現状の小型リチウムイオン二次電池のリサイクルプロセス例を図8に示す。既存の廃電池を焼却処理により機能破壊した後,破砕・選別を実施する。その際,廃電池には電力が残留しているものもあることから,機能破壊前の保管や取り扱い時には注意を要する10)。使用済み二次電池による火災事故の事例も多い。上記の焼却処理以外の機能破壊方法としては,塩水に浸漬することにより放電処理をした後に,破砕処理を行う方法も実施されている。廃電池の破砕には一般に一軸破砕機が採用されていることが多い。この理由は,一定のサイズにせん断破砕できる一軸破砕機が分別に適しているためである。

   破砕された廃電池は磁選,比重選別,篩分などの選別手法により,コバルト滓,銅滓及び鉄屑などに分別される。塩水浸漬・破砕法では,更に樹脂類の分別処理が必要となる。JX金属グループで実施している小型リチウムイオン電池の焼却,破砕,選別によって得られた回収物の主要成分例を表8に,コバルト滓の写真を写真2に示す。ここで回収されたコバルト滓には50~60%のコバルトが含有されていることから,良好なコバルト製錬原料となっており,海外の製錬会社に輸出され,コバルト地金等に製錬されている。

   また,回収された銅滓は銅製錬原料としてリサイクルされ,銅地金に再生されている。リチウムはコバルト滓と銅滓にそれぞれ分散して分配しており,濃縮されないため,回収されない2。また,リチウムはコバルトの乾式製錬時にはスラグに移行し,湿式製錬時にはコバルト回収後の排水中に移行する。リチウムは海水中に含有する成分で,環境上特に有害でないことから,リチウムを含む排水はそのまま放流されることが多い。

図8.小型リチウムイオン電池のリサイクルプロセス

表8.小型リチウムイオン電池からの回収物

図2.回収されたコバルト滓の写真

(3)ニッケルとコバルトのリサイクルプロセス

 現在稼働しているニッケル及びコバルトのリサイクルプロセスには,乾式製錬技術と湿式製錬技術がある。ニッケル,コバルトの乾式リサイクルプロセスは少なく,僅かにUMICORE社が実施しているISA-SMELT法などが挙げられる程度である。UMICORE社では,ISA-SMELT法により銅,貴金属,レアメタルを含有するスクラップを硫化溶錬した後,酸化溶錬して濃縮した金属を粉砕して金属粉としている。金属粉は酸浸出し,湿式の精製工程により金属を地金や化学薬品などに精製している。尚,同和鉱業が実施しているAusmelt法もISA-SMELT法と類似したプロセスなので,リサイクルに活用可能と推測される。

 また,既存ニッケル製錬設備の原料としてリサイクルし,ニッケル及びコバルト地金を回収する方法も行われている。この方法は最も経済性に優れるが,既存プロセスに適したスクラップ類しか処理ができない欠点もある。既存ニッケル製錬では硫化鉱をマット製錬法により濃縮,精製する方法で,ニッケル及びコバルトの金属地金を回収している。既存ニッケル製錬所でもリサイクルが実施されるようになってきており,特にXSTRATA社(Falconbridge),NORILSK NICKEL社などが積極的にコバルト滓の受入を実施している。

 比較的含有濃度の高いニッケル滓については,現状国内のステンレス工場がニッケル源として積極的に受入れて溶融していることから,ステンレス原料としてのリサイクルが主体となっている。

レアメタルのリサイクル技術としては,湿式プロセスが一般的で,数多くのリサイクルプロセスが存在する。コバルト,ニッケル,インジウム,モリブデンなどのレアメタルがリサイクルされている。湿式プロセスでは,酸浸出,硫化,中和,溶媒抽出,電解採取,電解精製などの工程を組合せて,レアメタル地金を回収している。図9にニッケル滓の湿式リサイクルプロセスのフローシート例を示す。ニッケル滓を硫酸で浸出した後,不純物元素を硫化処理,溶媒抽出,金属置換によって分離して,高純度の炭酸ニッケルを回収し,電解採取によりニッケル地金を製造する。

(4)リチウムイオン二次電池のリサイクル

リチウムイオン二次電池からコバルト,ニッケル,マンガン,リチウムなどのレアメタルを回収するプロセスは各種提案されてはいるが1) 11), 12),商業規模で一貫して操業を実施している企業は現時点では存在していない。実証化プラント規模で,リチウムイオン二次電池よりニッケル,コバルトを回収している世界で唯一の企業はUMICORE社である。マンガン,リチウムを大規模に回収している企業はまだない。

UMICORE社では現在二次電池のリサイクルのための実証化テストプラントをスウェーデンのHOFORS工場に設置して,技術開発に取り組んでいる。リサイクルプロセスの概要を図10に示す。廃電池をプラズマ炉で溶解し,リチウム,マンガンなどの不純物成分はスラグに移行させ,コバルトなどの有価金属をメタルに濃縮する。メタルはアトマイズして金属粉にした後,ベルギーのOLEN工場に送って,酸浸出し,湿式精製工程でレアメタルを化学薬品などに回収している。本プロセスで回収可能な金属はニッケル及びコバルトで,マンガンは金属価格が安いことから,現時点では回収されていない。また,リチウムはプラズマ炉で溶融するとスラグに移行するため,本プロセスでは回収できない。UMICORE社は実操業プラントをベルギーに建設する計画であるが,ニッケルとコバルトのみを回収するプラントである。

また,多量に発生するリチウムイオン廃電池に含まれるリチウム量は莫大であり,貴重な都市鉱山資源13), 14である。そのためリチウムのリサイクルには,多くの研究者が関心を持ち,世界各地の大学や研究所でプロセス開発に取り組んでいるが,これまで実操業プラントの稼動の報告はなかった。唯一の操業例はカナダのTOXCO社のプラントで,最近TOXCO社において廃リチウムイオン電池などから炭酸リチウムを回収するプラントが建設され,小規模な操業を開始している。TOXCO社のプロセスは廃電池を液体窒素によって冷凍し,サブマージドシュレッダーによって破砕する方法に特徴がある。破砕された廃電池を酸浸出した後,ソーダ灰により炭酸リチウムを生成させ,分離・回収している。このTOXCO社のプロセスは金属リチウムを含む一次電池を処理対象としているため,冷凍破砕,サブマージドシュレッダーなどの特殊な破砕プロセスを採用していることから,コストの面では課題も残るが,破砕技術面では非常に興味深い。今後需要の増加が見込まれる複合正極材のリチウムイオン二次電池の場合には,リチウム以外に多くのレアメタル成分を含有している。これらの金属価格は炭酸リチウムよりも高いことから,リチウム以外のレアメタルの効率的な製品化が商業化上の課題であるが,炭酸リチウム価格の上昇時には有効なリサイクルプロセスの一つとなろう。

図10.ニッケル滓のリサイクルプロセス

図11.廃二次電池のリサイクルプロセス

6.電気自動車用リチウムイオン電池リサイクル

    リチウムイオン二次電池は電動自動車などの用途に活用されることが期待されているが,前述の通り電動自動車用リチウムイオン二次電池の正極材には,コバルトだけではなく,ニッケルおよびマンガンがリチウム酸塩の形で添加された複合正極材が採用される可能性が高い。複合正極材の場合には,既存のコバルト系電池のリサイクルプロセスでは含有する複数のレアメタルの回収ができないため,新たなリサイクルプロセスの開発が必要となっている。

    現在,JX金属グループで実施しているリチウムイオン二次電池の廃正極材からのレアメタルのリサイクルプロセスの基本フローシートを図11に示す。このプロセスは1970年代に日本鉱業グループの日鉱ニッケルコバルト製錬株式会社15が実施していたニッケルとコバルトの製錬プロセスを応用したものである。廃電池は既存の小型電池のリサイクルと同様に,先ず機能破壊を実施し,破砕,分別工程を経て,正極材を含む粉状物を回収する。粉状の廃正極材は正極材と負極材の混合物で,破砕時に粉状となったアルミニウム箔,銅箔,樹脂膜及び筐体が混入している。この廃正極材を原料としてレアメタルを回収する。

    廃正極材中にアルミニウムが混入していると,酸浸出時に高粘度の溶液となることから,先ず廃正極材を強アルカリ溶液で浸出し,アルミニウムのみを溶解して,ろ過・分離する16。そのろ過ケーキを硫酸で浸出して,コバルト,ニッケル,マンガン,リチウム及び銅を浸出する17)。この時,負極材のカーボン,樹脂は浸出されないことから,ろ過することにより分離する。ろ過後液にはレアメタルと銅が含まれていることから,先ず銅イオンを分離する。銅の分離方法としては,溶媒抽出法と硫化法があるが,本プラントでは硫化法を採用している。銅を硫化物としてろ過分離した後,溶液のpH を調整して溶媒抽出することにより,マンガン,コバルト,ニッケルの順に抽出し,それぞれ単独のイオンのみの酸溶液とする。リチウムは溶媒抽出後の酸溶液中に残留することから,ソーダ灰を添加することにより,炭酸リチウムとして析出させて,分離回収する。溶媒抽出されたマンガン溶液,コバルト溶液及びニッケル溶液はそれぞれ浄液工程で不純物成分を分離,精製した後,電解採取によってレアメタル金属を回収する。電解採取時には一定濃度の溶液に調整する必要があることから,マンガン及びニッケルの場合にはリチウムの場合と同様にソーダ灰により炭酸化物を生成させ,電解液に溶解することにより濃度を調整する。コバルトの場合は高濃度の抽出液が得られることから,希釈することにより濃度を調整し,電解液とする。

    本プロセスは実証化試験により,マンガン,コバルト,ニッケル及びリチウムを技術的に抽出分離,精製できることを確認したが,マンガンとリチウムは金属価格が安いことから,現時点でリサイクルが経済的に成り立たないことが分かった。そのため,現在コバルト及びニッケルを事業化してリサイクルを実施している。また,リチウムは低コストで回収できる一部のリチウムのみを炭酸リチウムにリサイクルしている。

図11.電動自動車用リチウムイオン二次電池のリサイクルフローシート

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