1.リチウムの物性値
リチウムは原子番号 3の原子で,原子量は 6.941,融点は180℃,沸点は1330℃と低く,比重は0.534と軽い元素で,イオン化傾向が強く,酸化還元電位が-3.045 Vと低い。




2.リチウムの歴史
1800年 ブラジルの化学者ジョゼ・ボニファシオ・デ・アンドラーだ・エ・シルヴァによって,スウェーデンのウート島の鉱山からリチウムを含有した葉長石(LiALSi4O10)を発見。
1817年 スウェーデンの化学者アルフェドソンが,鉱物の分析により,リチウムを発見。
1821年 ドイツ人化学者のブランドが電気分解により,初めて金属リチウムを単離。
1855年 ロベルト・ブンセンとアウグストス・マーティセンは,塩化リチウムの電気分解により大量の金属リチウムを製造した。
1923年、ドイツのメタルゲゼルシャフト社が熔融塩電解による金属リチウムの工業的生産法を発見し、その後金属リチウム生産を実施した。第二次世界大戦前後には航空機用の耐熱グリースとしての少量の需要しかなかったが、戦後水素爆弾の製造のための需要が急激に増加した。その後、21世紀にかけて電気自動車(EV)の動力であるリチウムイオン電池の需要を満たすため中南米や豪州,中国で採掘や鉱山開発が進んでおり、「白い黄金」とも呼ばれるようになった。
また,リチウム(Lithium)の名前の由来として,リチウムが鉱物である葉長石(LiAlSi4O10)から発見されたことから,ギリシャ語で石を意味する「Lithos」より,リチウムと命名された。
3.リチウムの需要
リチウムの需要を図1に示す。従来,窯業の釉薬,グリース,ゴム・エラストマー,連続鋳造,空調などの用途が多かったが,リチウムイオン電池の需要が急増しており,今後も電気自動車用のリチウムイオン電池の需要は増加するものと思われる。尚,金属リチウム電池も一時期需要が増加したが,反応が激しいため,特殊な用途を除いて,他の種類の電池に代替されている。 リチウムイオン電池の需要が急増している理由としては図2に示すとおり,リチウムイオン電池は重量当たりのエネルギー密度が大きく,体積当たりのエネルギー密度も大きいため,モバイルタイプの二次電池として優れているため,電化製品や自動車用の二次電池等として需要が急増している


4.リチウム資源
リチウム資源としては,鉱山出の鉱物と塩湖の塩に含まれるリチウムがあるが,リチウムイオン電池には主として塩湖から精製された炭酸&水酸化リチウムが使用されている。陶器の釉薬等の原料には鉱山出の鉱物等が使用されている。
また,リチウムの可採埋蔵量と資源生産量をそれぞれ図2及び図3に示す。
写真5に世界最大のリチウムを製造しているチリ国の塩湖アタカマ塩湖の写真を示す。写真6はその周辺の世界で最も乾燥しているアタカマ砂漠の写真である。また,写真7は観光でも有名なボリビアのウユニ湖の写真を示す。ウユニ湖の塩湖かん水には高濃度のリチウムが含まれていることから,将来のリチウム資源として期待されている。写真8には塩湖のリチウム製造風景をしめす。







5.主要リチウム生産企業
表1.に世界の主要リチウム生産企業をしめす。チリ国SQM Atakama塩湖,米国FMC社 Lithium Hombre Muertoアルゼンチン, ドイツChemetal社 Atakama塩湖,豪州鉱山Talison Lithium社 Green Bushes鉱山等が挙げられる。特に,リチウムイオン電池用のリチウム生産企業としては,チリ国SQM,米国FMC社及びドイツ国Chemetal社が挙げられる。
6.リチウム価格の推移
リチウム価格の推移を図8に示す。2000年頃は4~6ドル/㎏で推移していたが,2008年には8ドル/㎏に上昇し,2016年以降12ドル/㎏程度に価格が上昇している。リチウム価格の上昇はリチウムイオン電池の需要に起因している。

6.リチウムの製造法
塩湖のかん水よりリチウム塩の製造方法を図4に示す。


7.リチウムのリサイクル
リチウムの大規模のリサイクルに関する情報は得られていないが,国内ではJX金属の敦賀工場でリチウムイオン電池リサイクルにおいて一部のリチウムを炭酸リチウムとして回収している。『リサイクルの部屋 電池リサイクル』の項参照。
また,住友金属鉱山でもリチウムイオン電池リサイクルにおいてニッケルとコバルトを回収した後のマンガン・リチウム含有スラグよりリチウムの回収を始めている。リチウム価格も上昇傾向にあることから,近い将来大規模にリチウムのリサイクル事業が実施されるものと思われる。