1. チタンの歴史と物性
チタンの歴史は浅く,1791年にイギリスの聖職者グレゴールによって発見され,1795年にドイツのクラプロートによってチタンと命名された。その後,1910年に米国ハンターによって初めて99.9%金属チタンが製錬された。1946年にはルクセンブルクのクロールがマグネシウムで四塩化チタンを還元する方法を開発し,1948年に米国において金属チタンの工業生産が開始された。
金属チタンは「軽い」,「強い」,「錆びない」等の特性があり,光沢のある白色を呈する金属で,鉄とアルミニウムの中間の密度で,鉄の2倍,アルミの6倍の強度を有する。チタンの物性を表1に,チタンの主要用途を表2に示す。
表1.チタンの物性値

表2.金属チタンの用途

2.世界のチタン資源と製錬
(1)チタン資源
チタンは地殻中の存在量が多く,成分として9番目に多い元素であり,チタン資源も世界各地に賦存しているが,金属チタンや酸化チタン用の原料としては,主に天然ルチルとイルメナイトが挙げられる。これらの資源の国別埋蔵量と国別生産量とを表3に示す。
天然ルチルの埋蔵量は59百万トンで,埋蔵量が多い国はオーストラリア,ケニア,南アフリカ,インド等であり,資源生産は2016年度74万トンで,オーストラリア,南アフリカ,シエラレオネ等が多い。イルメナイトの埋蔵量は770百万トンで,中国,オーストラリア,インド,南アフリカ等に埋蔵量が多く,資源生産は2016年度586万トンで,南アフリカ,中国,オーストラリア,カナダ等が多い。尚,チタン資源の大部分は白色塗料原料の酸化チタンとして使用されており,金属チタンの原料として使用されているチタン資源は10%程度にすぎない。
(2)チタン製錬
世界のチタン製錬会社とその生産能力を表4に示す。日本国内には大阪チタニウムと東邦チタニウムの2社があり,航空機のクリティカル部品等の高品質のスポンジチタンを製造・輸出している。米国にはTIMET社,ATI社等の3社があり,日本からスポンジチタンも輸入して,航空機用の金属チタンを製造している。尚,TIMET社は東邦チタニウムのスポンジチタン製造技術を導入している。近年,旧ソ連邦(CIS)の各製錬所も設備能力を増強しており,79,500t/年の能力を保有する。また最近,数多くのスポンジチタン製錬所を建設して生産能力が急増したのは中国で,現状10社以上の製錬所が稼働しており,その生産能力も128,500t/年に達するが,品質レベルはかなり低い。ヨーロッパ,その他の国にはスポンジチタン製錬所は無い。
表3. チタン資源の埋蔵量&採掘量

表4.主要なチタン製錬事業者

写真1.チタン資源の採鉱操業

写真2. スパイラル選鉱機

3.チタン原料
(1)金属チタン製錬原料
スポンジチタン製錬の原料としては,高純度の天然ルチルと合成ルチルがあるが,近年天然ルチルの産出量が減少傾向にあるためイルメナイトを製錬して脱鉄した合成ルチルが主体となってきている。スポンジチタン用原料の酸化チタン濃度は従来高品質94~96%のものを使用していたが,近年高純度品が不足してきたことから,主として純度93%以上の原料を購入している。2012~2013年度にはチタン原料価格が高騰し,良質の天然ルチルでは2,500~3,000$/t 近くまで上昇したことから,85%程度のチタンスラグも混合して,平均92%を下回る酸化チタン濃度の原料で操業したこともあったが,不純物の塩化物が多量に発生することにより,塩化炉の揮発ガス系統の設備で閉塞トラブルが多発した。揮発ガス系統の設備に多量の塩化物を効率的に排出する機構が無く,発生する塩化物の処理コストも大きくなるため,原料価格と塩化物の処理コストを勘案し,現状スポンジチタン原料としては酸化チタン濃度で平均93%以上の原料を使用している。詳細は後述の塩化工程の揮発ガス系統設備を参照。
また,チタン鉱石である天然ルチルとイルメナイトには放射性元素が含有されており,人体への影響を防止する基準値以上の放射性を示す鉱石も多いので,放射性元素の含有濃度にも注意が必要である。日本国内の安全基準としては,1年間(365日)被ばくした場合の一般公衆の実効線量限度(1mSv/年)以下に維持することが義務付けられており,チタン製錬廃棄物の廃棄基準として0.14μGy/hが規定されている。
表5.チタン鉱石分析例

(2)イルメナイト製錬
チタンの製錬用の原料は純度90-96%酸化チタンのルチルまたは合成ルチル等である。93-96%酸化チタンを含有する天然ルチルはそのままでチタン製錬原料となるが,資源埋蔵量も少なくなってきており,イルメナイトを脱鉄してアップグレードし,合成ルチルとして原料として使用しているのが現状である。イルメナイトから合成ルチルを製造するプロセスをイルメナイト製錬として以下に示す。
イルメナイトの製錬には以下のプロセスが稼働している。通常のイルメナイト鉱石には酸化チタンが40~60%含有されており,酸化鉄も20~30%程度含有している。
1)チタンスラグ製錬法(Ti Slag Smelting Process)
イルメナイトをアーク炉により1700~1800℃で溶融し,無煙炭によって酸化鉄を還元して銑鉄にして分離することにより,80~92%の酸化チタン濃度のチタンスラグを得る製錬法である。大型アーク炉では酸化チタン濃度80~88%スラグを製造するが,中国式の小型アーク炉では更に高温で脱鉄をして88~92%スラグを製造している。
チタンスラグの製造は国内では実施しておらず,カナダRTFT(QIT),ノルウェーETI(Tinfos社),南アフリカRBM,南アフリカNew Tronox (Exxaro),カザフスタンUKTMK,中国Xinliなどの大型アーク炉による操業の他,中国式の小型アーク炉による操業が実施されている。中国式小型炉の操業は中国とベトナムにて実施されている。中国には大連(撫順),称徳天福,Yulong,Fengcheng Qianyu Titanium, Pangang Titanium Industry等の多くの小規模な製錬所があり,ベトナムではSQC,BIMICO,HUMEXCO等の製錬所が中国より技術を導入して稼働している。
イルメナイト → 乾燥 → 還元溶錬 → 溶 鉄 → 脱 硫 → 鋳 造 → 銑鉄
↑ ↓
無煙炭 スラグ → 冷却 → 粉砕・選別 → チタンスラグ
図1.チタンスラグ製錬フローシート
2)アップグレードスラグ法(UGS法)
Rio Tinto社のRTFT(旧QIT)が実施しているカナダ国ケベック州にあるSorel-Tracy製錬所のスラグのアップグレード法である。Sorel鉱山で採掘されるイルメナイトは鉄等の不純物成分が多く含有されており,酸化チタン品位が低く,スラグ製錬によって得られるスラグの酸化チタン品位は80%程度にしかならない。そのため,酸化チタン製造プラントの硫酸法用原料のスラグにしか使用できないことから,塩化法用のスラグにアップグレードするために開発されたのが,本技術である。本法はアップグレードスラグ法(UGS法)と呼ばれ,合成ルチル並みの95%品位のスラグを製造して,世界各地の金属チタン製錬メーカー及び塩化法酸化チタンメーカーに原料として供給している。チタンスラグ製造能力は年間145万トン(うち,品位の低いSorel スラグ 100万トン,高品位のマダガスカルスラグ 45万トン)で,UGSの生産能力は年間40万トンであり,世界最大のイルメナイト製錬会社である。
チタンスラグ→酸化焙焼→ 還元焙焼→ 塩酸加圧浸出 → 浸出残渣 → 煆焼 → UGS ( 160℃ ) ↓ 浸出廃酸 ↓ 塩 酸 ← 蒸 留 → 酸化鉄残渣
図2.スラグのアップグレーディング法フローシート
3)合成ルチル製錬法(UGI,SR)
① Benilite法
イルメナイトを還元焙焼後に選鉱してモザナイト等を分離回収した後,塩酸で加圧浸出(130~140℃)して鉄を塩化鉄として浸出してアップグレードするイルメナイト製錬法で,1975年にBenilite社によって開発された合成ルチル製造方法である。現在,インドのDCW及びCM (Cochin Minerals and Rutile Ltd.),マレーシアのTOR社で実施されている高品位酸化チタンの湿式製錬法である。本プロセスの課題は分離した塩化鉄の処理で,塩化鉄の需要は少ないため,インドでは主に中和して埋め立て処分されている点にある。一方,TORは蒸留により塩酸リサイクルしているが,図3に示すように塩酸を蒸留して回収した場合にも,生成する酸化鉄の用途はほとんど無くなく,結果的に埋め立て処分されており,環境面での課題となっている。
イルメナイト → 還元焙焼 → 選 鉱 → 塩酸加圧浸出 → 浸出残渣 → 煆焼 → UGI
↓ (130~140℃) ↓
モザナイト他 ↑ 浸出廃酸 ↑ ↓
塩 酸 ← 蒸留・中和 → 酸化鉄残渣
図3.Benilite法のフローシート
② Becher法
Becher法は1963年にBecher等によって開発され,豪州Iluka社で実施されている合成ルチルの製造法である。製造プロセスの概要を図4に示す。先ず石炭を用いた還元焙焼によってイルメナイト中の酸化鉄を金属鉄まで還元する。次に,塩化アンモンを触媒として,水中で還元鉱を空気撹拌して金属鉄を酸化し,微細な酸化鉄として還元鉱より遊離させる。最後に2%程度の希硫酸で浸出して残留した鉄とマンガンを溶出して合成ルチルを製造している。本プロセスはBenilite法に比較して製造コストは安いが,原料中に存在するAl2O3,MgO,CaOが除去されず,鉄も一部残留することから,製造した合成ルチルのTiO2品位は92~93%と低いことが特徴である。酸化チタン業界では四塩化チタン原料としてそのまま販売されているが,金属チタン製錬用の原料としては更に純度が高い合成ルチルが使用されている。
イルメナイト → 還元焙焼 → 選 鉱 → 鉄酸化 → 希硫酸浸出 → 煆焼 → 合成ルチル
↓ ↓ ↓
非磁性物 酸化鉄 浸出液
図4.Becher法のフローシート
表6.金属チタン原料の分析例

写真3. ミネラルサンド

写真4. UGIプラント

4.スポンジチタン製錬
(1)スポンジチタン製錬プロセス概要
鉱石より金属チタンを得るスポンジチタン製錬は1946年に開発されたKroll法と呼ばれるマグネシウムによる還元を利用した製錬法で,チタンを工業的に製造する唯一のプロセスである。金属チタンの製錬プロセスは次の工程に分かれる。(図5.チタン製錬プロセスの全体フローシート参照)
① 四塩化チタンの製造工程(塩化工程)
② チタンの還元分離工程
③ マグネシウムの溶融塩電解工程
④ スポンジチタンの破砕・梱包工程
前述の通り,純度の高い酸化チタン原料である天然ルチル,合成ルチル(SR)及び高純度化スラグ(UGS)を原料として,塩化炉において酸化チタンを塩化し,四塩化チタンを製造する。次いで,密閉容器中で四塩化チタンを金属マグネシウムにより還元して,スポンジチタン塊を生成する。スポンジチタン塊は高圧力のシリンダーを用いて容器より押し抜き,塊の部位の品質に応じて切り分けて破砕し,スポンジチタン塊を得る。還元反応の生成物である塩化マグネシウムは溶融塩電解に送って,金属マグネシウムとして電解析出させ,還元分離工程で繰り返し使用する。
チタン鉱石 → イルメナイト製錬 → 製錬原料 → スポンジチタン製錬(Kroll法) → スポンジチタン
TiO2+FexOy → TiO2 → TiCl4 → Ti
( TiCl4 + Mg → Ti + MgCl2 )
天然ルチル イルメナイト → 製錬 → 合成ルチル → 塩化工程 → 還元分離 → 破砕 → 金属チタン スラグ (UGS) ↓↑ コークス粒 マグネシウム電解 ( MgCl2 → Mg + Cl2 )
図5.チタン製錬プロセスの全体フローシート
(2)塩化工程(四塩化チタン製造)
天然ルチル,合成ルチル及びUGS(アップグレードスラグ)を原料として塩化炉により四塩化チタンを製造する工程が塩化工程である。塩化工程のフローシートを図6に示す。約1,000℃に保った塩化炉にチタン原料とコークス粒を連続的に装入すると,下記の通りの塩化反応が連続的に生じて,四塩化チタンが生じる。尚,本反応は発熱反応なので,温度の維持に加熱の必要は無く,塩化炉上部では常時散水冷却して塩化温度をコントロールしている。塩化炉出口にはソリッドコンデンサー(Solid Condenser),噴霧塔(Spray Tower) ,サイクロン(Gas Cyclone), 冷却コンデンサー(Quench Condenser)が設置され,揮発した四塩化チタンを冷却して液体の粗四塩化チタンを回収する。前段の装置では四塩化チタンより沸点の高い塩化鉄,塩化マンガン,塩化クロム等の重金属塩化物が凝縮・固化し,塩化炉からの飛散物と一緒に分離除去される。また,塩化炉からの飛散物もここで分離除去される。
粗四塩化チタンは更に深冷コンデンサー(Deep Quench Condenser)で回収され,排ガスはデミスター(Demister)を通じて排ガス処理プラントに送られる。排ガス処理プラントでは,排ガスを水洗浄塔(スクラバー)により洗浄後,パイプフィルター,活性炭塔を経て,大気放出している。また,粗四塩化チタン中の固体不純物としては,鉄分が主体であり,液体の不純物としてヒ素,ケイ素,アンチモン及びバナジウムが含まれているので,蒸留工程において不純物を分離する。液体の不純物のバナジウム等は硫化水素またはオイルにより,蒸留により分離可能な塩化物に還元する。その後,蒸発釜で加熱して気化させ,それぞれの不純物分子の沸点差を利用して精留塔にて精製し,精製四塩化チタンを製造する。 表7に製品の四塩化チタンの主要成分仕様を,表8に四塩化チタンの物理的性質を示す。
TiO2 + 1.14 C + 2Cl2 → TiCl4 + 0.33 CO +0.86 CO2
塩素 ← マグネシウム電解 排ガス処理 → 大気放出 天然ルチル ↓ ↑ 合成ルチル → 流動塩化炉 → SC → 噴霧塔 → サイクロン → QC → 精製 → 精留塔 UGS ↑ コークス(カルサイン)
図6.塩化工程のフローシート及び反応
2VOCl 3 + H2S → 2VOCl 2 + 2HCl + S
図7.硫化水素による粗四塩化チタンの還元反応(バナジウムの例)
表7. 四塩化チタンの製品スペック

表8. 四塩化チタンの物理的性質

(3)還元分離工程(金属チタンの製造)
① 還元工程
塩化工程より送液されてきた精製四塩化チタンは一旦貯液槽に保管した後,還元工程で使用する。ステンレス製の反応容器(SUS316)を還元炉内に設置して,液体の金属マグネシウムを注入し,炉内壁に設置されたカンタル線ヒーターにより,加熱する。反応容器が800℃程度に到達した後,上蓋内に設置した注入管より,四塩化チタンを連続して滴下して,下記の反応により四塩化チタンを還元して金属チタンを析出させる。金属チタンの析出反応イメージを図11に示す。
この還元反応は図8に示す通り発熱反応であり,四塩化チタンの滴下により外筒内部の温度は上昇する。生成した金属チタンは1080℃以上で,容器の鉄と合金化し,外筒が溶損することから, 950℃以上に温度が上昇しないように,低速度で長時間をかけて四塩化チタンを滴下することが必要となる。また,還元操業中は還元炉内に設置された風冷管を通して外気の空気をブラワーにより吹き付けてして外筒を冷却し,外筒を一定の温度(800~900℃)に保持している。従って,還元炉は操業開始時にはヒーターによって加熱し,還元反応によって温度が上昇すれば,必要に応じて空気を吹き付けて冷却し,温度制御を行う構造となっている。還元時間は90~100時間/回で,四塩化チタンの滴下速度は8 l/min (14kg/min)程度の低速で,滴下時間は5日程度の時間をかけて,チタンを還元析出させている。 尚,滴下時間は生成するスポンジチタンの大きさに応じて決まる。
TiCl4 +2Mg → Ti + MgCl2 発熱 387×103 J/mol. at 800℃
図8 チタンの還元反応
この四塩化チタンを金属マグネシウムで還元して金属チタンを生成する製錬方法は,ルクセンブルクのW. Krollが1936年に初めて工業化した技術であることから,Kroll法と呼ばれている。尚,金属ナトリウムによって還元する方法が米国の科学者Hunterにより1910年に開発され,最初に工業化されたが,現在は全てKroll法に置き換わっている。この還元反応はステンレス製の密閉容器である外筒の中で生じさせているが,パッキン等の隙間より空気が少量でも侵入すると酸化チタンや窒化チタン粒子が生成して金属チタンの圧延時に亀裂,割れ,すじ等のチタン薄板の欠陥を生じさせる。このため,チタンが空気と接触する機会を完全に防止することが必要で,外筒を組み立てる時点で真空引きを行い,0.08MPaに減圧してリークの無いことを確認後,アルゴンガスを封入して還元反応に供する。また,外筒は還元反応による圧力変動にも耐えうるよう確実に密閉することが必要であり,変形したシールパッキンの取り換え,ボルトの締め付けを確実に行うことが重要である。また,外筒容器の鉄はスポンジチタンと合金化することから,操業により外筒は徐々に溶損し,板厚も減少する。特に,還元反応が生じる部分では溶損が顕著である。そのため,外筒の厚み測定も定期的に実施し,圧力変動に耐えられることを確認することが必要である。外筒の形状は歴史的に大きくなってきており,現状5~15tのスポンジチタン塊を製造する外筒使用されている。通常外筒は通常80回程度の操業が可能であり,操業毎にステンレスが溶損する。外筒の板厚測定により判定基準(11㎜)を下回ると安全のため,廃棄されている。
Mg TiCl4 MgCl2 ↓ ↓ ↑
外筒 → クラスト受け → 金属マグネシウム注入 → 四塩化チタン滴下 → 塩化マグネシウム抜き → 分離工程
図9.還元操業の作業ステップ
② 分離工程
還元反応が完了した外筒(赤熱外筒)は真空分離工程に天井クレーンで運ばれ,分離炉に設置される。次に,整備の終了した空の外筒に蓋を取り付け,真空引きにより真空度をチェックした後,コンデンサーに運んで,設置する。連結管を用いて赤熱外筒と空外筒とを接続する。分離炉は加熱し,コンデンサーは風冷によって冷却しながら,真空分離を実施する。コンデンサー側から真空ポンプで吸引し,赤熱外筒内のスポンジチタン中に残っているマグネシウムと塩化マグネシウムを揮発させ,コンデンサー内に析出させる。このマグネシウムと塩化マグネシウムの混合析出物をクラストと呼び,還元時のマグネシウム原料としてリサイクルしている。真空分離時間は還元時間と同様に5日程度必要である。真空分離が終了した還元済み外筒(スポンジ入り)は冷却架台に設置し,外部より冷却空気を吹き付け,5日程度空冷する。
③ スポンジチタンの取出し工程
室温まで空冷された分離後の外筒はクレーンで転倒機に運搬して転倒させ,蓋取り装置(マニプレーター)により外筒蓋を取り外す。外筒蓋の取り外し時には外筒蓋裏及び外筒上部に付着した金属マグネシウム粉が空気と反応して着火することがあるので,外筒の温度が確実に室温になっていることを確認して蓋取りを実施する。外筒蓋は付着したスポンジチタンとマグネシウムクラストを取り除き,次の操業用の外筒蓋として整備する。蓋を取り除いた外筒は,テールキャップの切断装置に設置し,テールキャップをプラズマアークにより切断する。次に,外筒を押し抜き装置に運び,昇降ロッドをテールキャップの切断部分に合わせて,数百トンのロッド油圧昇降装置によりスポンジチタンを押抜く。
外筒内面にはスポンジチタンが融着していることから,パンチの下部よりロッドを高圧力で押し込み,融着面を破断しつつ,スポンジチタン塊を無理やり押し抜いていく。従って,融着状況が顕著な場合や,外筒が変形して外筒上部がスポンジ塊より若干小さい場合などは,押抜きに時間がかかることになる。尚,数日かけても押抜きできない場合が稀にあり,その場合には外筒を転倒し,エアーピック等を用いて内部のスポンジ塊を砕き,人手で少しづつ取り出すことになる。このような押抜きトラブル多くの場合は外筒の変形によることが多いことから,外筒の寿命判断と整備には十分注意が必要である。 押し抜いたスポンジチタン塊は破砕工程に送る。
冷却外筒 → 転倒 → 蓋取 → テールキャップの切断 → 押抜 → スポンジ塊
図10.スポンジ取り出し作業
④ 外筒整備・組立工程
四塩化チタンをマグネシウムで還元して金属チタンを析出させる反応工程では,空気の侵入によりチタンの酸化や窒化が発生するため,密閉された容器内で還元反応を行わせる必要がある。容器には外筒と呼ばれるSUS316ステンレス製の容器を使用しており,外筒に高温用のパッキンを取り付けて上蓋をボルトで固定して密閉化している。また,外筒の上蓋には四塩化チタンの滴下用のパイプを取り付け,外筒には塩化マグネシウムの取り出し用のパイプが設置されている。
容器の密閉度は組み立て後の加圧リークテストによりチェックし,リークがないことを確認して,還元操業に供する。加圧リークテストは0.1Mpa加圧し,接合部に石鹸水を塗布して,泡の発生の有無を確認する方法で実施し,泡の発生が生じた場合には再度外筒と蓋を組み立て直す。
リークテストが完了した空の外筒は分離工程に送って,還元済み外筒と連結管で接続して,真空引きにより還元済み外筒からマグネシウムクラストを空の外筒に揮発分離して回収する。空の外筒にはマグネシウムと塩化マグネシウムの混合物であるクラストが貯まることから,次回の操業時の金属マグネシウム源として利用している。
チタンは容器と反応するため,外筒及び上蓋の整備も重要な定常作業である。上蓋は内蓋にクラストとチタンの混在物が付着しているため,蓋取りを実施した後に内蓋に付着したクラストとチタンの混在物を専用の機械を用いて削り落として整備している。また,外筒の蓋取り作業は内部に析出したスポンジチタンが初めて大気に晒される時なので,極めて慎重に実施する必要がある。外筒中のスポンジチタンが十分に降温し,室温となっていれば,大気と接触しても特に反応は生じないが,温度が高いと空気中の酸素及び窒素と反応し,酸化チタンや窒化チタンを生成する。また,蓋裏や外筒上部に付着したクラストとチタンの混在物は着火し易いため,その取り除き作業は火花を発生させないように十分注意して実施する必要がある。
図12.還元・分離操業概念図

(4) 破砕工程
① スポンジチタンの整粒・梱包)
スポンジチタン塊を図13に示すフローシートで破砕し,粒度を揃えてスポンジチタンの製品とするが,スポンジ粒子のサイズはユーザーに応じて,10㎜~30㎜のサイズ(1/2~3/4インチ)に破砕される。還元分離工程から運ばれてきたスポンジ塊は,まずハツリ工程において不良部位を分離する。エアーピックにより上部や表面の合金化された部位を砕いて取り除き,清浄な塊のみを破砕工程に送る。続いて,大割工程において,ギロチンシャー(1,200tプレス)によりスポンジ塊を切断し,不良部分と清浄部分を判定して分別する。清浄スポンジ塊は破砕工程にコンベアで送り,金属チタン製品の原料となるA級スポンジとして破砕,梱包する。
図15のスポンジ塊の部位と品質に関する模式図に示すように,スポンジチタン塊の表面はステンレス製の外筒内表面と反応し,鉄やニッケル成分が高濃度に含有されていることから,A級品にはならない。また,スポンジ塊の底部には酸化物や窒化物等の不純物粒子が沈積していることから,表面部と同様に底部100~200㎜はB,C級品となっている。
分別した不良部位についてはB級スポンジ用の原料としてB級破砕工場へ送られる。B級スポンジはFe-Ti合金と同様に鉄鋼の添加材(脱酸材)としての需要があり,B級品専用の破砕工場で破砕し,ドラム詰めして製鉄会社に販売している。B級品の破砕工程等では更に品質の悪い粉状のC級品が発生するが,これには花火原料等の用途があり,それぞれ販売されている。
金属チタン製造用原料となるA級品の破砕工程はギロチン型大割シャーで粗砕き,分別した後,4台のシャーにより20~30㎜の粒子に砕かれる。更に,ダブルロールクラッシャーにて10㎜~30㎜のサイズ(1/2~3/4インチ)まで砕いている。
スポンジ塊 → ハツリ・分別作業 → 大 割 → シャー(1~4次) → ダブルロール → スポンジ粒
図13.スポンジチタンの破砕作業
② スポンジチタンの調合と梱包
スポンジチタン粒は図14に示すように目視検査にて,不良粒子を色,形状により手選別して除いて, ロット毎にホッパーに一旦貯蔵する。その後,スポンジチタン製品の規格に応じて,保管したスポンジ粒を取り出してドラムミキサーで混合し,製品ロットを調合する。調合されたスポンジチタン粒を分配装置によりドラム缶に装入して,真空引き後アルゴンを封入して梱包し,スポンジチタン製品として保管倉庫に貯蔵後,納期に応じて出荷している。
アルゴン ↓ スポンジ粒 → 目視検査 → 貯 蔵 → 混合(ドラムミキサー) → ドラム詰 → 倉庫 → 出荷
図14.スポンジチタン製品の梱包作業
③ スポンジチタン製品の欠陥
表9に金属チタン製品の欠陥の種類とその原因を示す。インゴット溶融時に発生する欠陥もあるが,スポンジチタン起因の欠陥としては,Soft α,LDI,HDI等が代表的な欠陥である。破砕工程のハツリ・分別作業,大割作業及び目視検査で取り除くことができないと,そのまま溶融されてインゴット製品となる。その後,客先でのインゴットの圧延時に欠陥となって発見されると,当該ロットの全製品が不良品として返却となり,賠償責任を負うことになるので,スポンジの分別と目視検査は極めて重要で,技能を要する作業である。
④ スポンジチタン製品の種類
スポンジチタンの製品品種を大別すると,金属加工製品の用途に使用されるA級品とその規格外のB級品及びD級品がある。B級品は前述の通り鉄鋼製造工程で使用される脱酸材料として扱われており,フェロチタンの代替品としての役割がある。D級品はB級品に比較して更不純物含有量が多いため,着火剤の役割で花火の原料や燃料として販売されている。
表10に示す通りA級品のスポンジメタルにも多くの品種があり,航空機のエンジン(回転体)用のA0,回転体以外の航空機原料用のA1,航空機以外の一般展伸材用のA2,展伸材以外の用途のA2,展伸材,原子力用,インプラント用以外の用途のA3に分類される。スポンジチタンの品質保証システムは航空機のエンジン(回転体)に使用されることもあって,極めて厳格な品質保証システムが構築されている。航空機のエンジン用のPAスポンジチタンは不純物成分濃度の規格以外に,製造工程の操業条件の保証(製造保証)も行い,欠陥の発生防止を保証している。一般に,スポンジチタンをインゴットに溶解し,圧延加工を実施した際に欠陥が発生し,スポンジチタン起因の欠陥であった場合には,そのスポンジチタンを原料として使用したすべての製品が不良品となり,全製品に対して賠償金を支払う義務を負うシステムとなっている。
表9.金属地金製品の欠陥の種類と原因

図15. 金属スポンジチタンの部位毎の品質

表10.スポンジチタンの品質

表11.スポンジチタンの分析例

(5) マグネシウムの電解工程
還元分離工程において生成した塩化マグネシウムは,コンテナにてマグネシウム電解工程に運び,溶融塩電解により金属マグネシウムと塩素に電気分解する。その際,塩化マグネシウム中には金属マグネシウムが混入していることから,空気との接触を最小限にするように十分注意して電解槽に注入して電解することが必要である。
また,マグネシウム電解によって発生する塩素は塩化工程にリサイクルし,塩化炉用の吹込み塩素として繰り返して使用するが,人体に有毒な気体であるため,塩素ガスの漏洩を確実に防止することが重要である。尚,塩素ガスは電解槽上部のフードより吸引して回収するため,リサイクル塩素ガスには通常空気が数パーセント混入している。
塩化マグネシウム → 溶融塩電解 → 金属マグネシウム → 還元分離工程
↓
塩素ガス → ダスト除去・乾燥 → 塩化工程
図16.マグネシウム電解の概念
溶融塩電解では電極間に大電流を流すことにより,各電極で次の反応を生じさせて,塩化マグネシウムを金属マグネシウムと塩素ガスに分解する。また,マグネシウムの電解量の理論値は次式で算出できるが,実際の析出量を理論量で割り返した値が電流効率となる。電解操業を管理する上で電流効率を高く維持することが,電力原単位を下げることになることから,最も重要な操業管理事項である。電流効率は当社のバイポーラ型電極では75~85%であるが,理論値からの乖離原因としては,電極間で電解に使用されない漏れ(短絡)電流が流れたり,一旦析出した金属マグネシウムが塩素と反応して再び塩化マグネシウムを生成することなどが挙げられる。電流のロスはいずれにしても融体内を電気が流れることによる抵抗発熱となり,一定量は電解槽内温度の維持の熱源に有効であるが,多量に電流ロスが発生すると過剰な発熱して融体温度が上昇することから,常に650℃に維持するように冷却が必要となる。
陽極での反応 : 2Cl- → Cl2 +2e-
陰極での反応 : Mg2+ + 2e- → Mg
理論マグネシウム電解量 : Mg量(m[kg])=(It/zF)M=0.4536×通電量(I [kA])×3×通電時間(t [hr])
電解析出定数(M /zF)=3600sec×24.3(g/mole)÷9.65×104(ファラデー定数)÷2(z:価数)=0.4536
① 溶融塩
塩化マグネシウムは海水中に豊富に存在する「にがり」として知られているが,塩化マグネシウム水溶液の電気分解では金属マグネシウムは析出しないため,溶融塩による電解が実施されている。電解温度は極力低温が望ましいため,溶融塩には塩化マグネシウムの他に塩化カルシウム,塩化ナトリウム,フッ化カルシウムを溶融して650℃程度の低融点の電解浴を使用して,電解を行っている。これらの塩化物等は混合融体になることにより,融点が純物質と比較して大幅に低下する性質がある。表12に示す物性値を参照。
② 電解方式
マグネシウム電解方式には幾つかの型式があるが,日本国内の製錬所で採用している電解方式は「バイポーラ」と呼ばれる電極間に複数のバイポーラ電極を配置した最先端の電解方式である。図14に示す熔融塩電解の概念図をご参照。この方式は日本の製錬所しか実用化していない効率的な電解方式である。バイポーラ極は1枚の電極の両面が陽極と陰極に分かれて機能(分極)することにより,電解面積を増やし電極間距離を小さくする効果がある。陽極とバイポーラ極にはグラファイトが使用されており,陰極には軟鋼鉄が使用されている。
シングル型電極と比較して,バイポーラ型電極では各電極間距離が短く,電気抵抗が少なくなるため,電圧を5Vから3.7Vに低下させることが可能となり,電流効率は75~80%から75~85%に上昇する。電力原単位としては,シングル型電極が約14,000kWh/tに対して,バイポーラ型電極では約10,500kWh/tに低下する。しかし,バイポーラ型電極では各電極間距離が短く,発生した塩素と金属マグネシウムの再反応が起こり易いため,撹拌等による電流効率の低下の防止には注意を要する。
③ 電解槽
1)電解室とメタル室
マグネシウム電解槽は電解室とメタル室から構成されており,両者を隔壁で部分的に仕切って,電解された金属マグネシウムを効率的にメタル室に集める構造とている。尚,金属マグネシウムは溶融塩よりも比重が小さいことから,メタル室上部に浮上して溜まる。従って,メタル室上部より金属マグネシウムをサイホン炉により吸い上げて一旦リザーバに保管した後,マグネシウム用コンテナにて還元分離工程に運び,循環使用している。電極は電槽の形状に応じて電極の形も最適化されている。
2) 耐火物
電槽内部には融体による溶損を防止するため,部位に応じて最適な耐火物が使用されている。耐火物の損傷原因としては,金属マグネシウムによる耐火物成分の還元による溶損,耐火物気孔に融体が侵入して耐火物内部で電解現象が生じて金属マグネシウムを析出し,耐火物が損傷する電触,熱衝撃によって発生するスポーリング現象による損傷等が挙げられる。 電槽に使用される耐火物の材質は通常酸化アルミニウムとシリカの混合物であるが,電槽内の部位に応じて多種類の耐火物が使用されている。
3) 発生塩素の吸引処理
電解槽から発生した塩素中には,黄粉と呼ばれる塩化物の粉塵が含まれており、ダストチャンバーとバグフィルターによって,塩素中から除去される。その後,塩素を塩化工程で繰り返し使用するために,乾燥塔に導入して硫酸に接触させて乾燥する。また,電解工程で発生する金属マグネシウムと塩素量は通電量に依存するため,通電量の増減を行う時は,吸引圧を調整しなければ塩素漏洩を引き起こす。
また,塩化工程のナッシュポンプ及び塩素ブロワーと電解工程の塩素ブロワーで吸引することで,発生した塩素を塩化工程に送る。現在,電解工程の塩素ブロワーは停止しており,ナッシュポンプ及び塩化工程の塩素ブロワーのみで吸引を行っている。また,各系列には自動制御のプラグ弁と手動操作のバタフライ弁が設置されており,PICAと呼ばれる指示調節計で吸引圧は制御されている。なお,自動プラグ弁と手動バタフライ弁の設定が適切でない場合にはハンチングと呼ばれる吸引圧の乱れが発生することがある。
図17.熔融塩電解の模式図(バイポーラ電極)
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表12.マグネシウム電解浴の物性値

5.スポンジチタンの加工
(1)インゴット溶解
チタンを各種金属材料の用途に使用するためにはスポンジチタンをインゴットに溶解して,圧延加工することが必要になる。スポンジチタンの溶解設備としては,真空アーク炉(VAR:Vacuum Arc Remelting)と電子ビーム溶解炉(EB:Electron Beam Refining)の2種類の溶解炉が使用されている。インゴットの大きさは用途に応じて1~15tのインゴットが製造される。図16真空アーク溶解プロセス(VAR)及び図17電子ビーム溶解プロセス(EB)を参照。
VARはスクラップとスポンジチタンを混合してプレスしたブリケットを溶接した後,真空下でアーク溶解をしてインゴットを製造するが,EBはスクラップとスポンジチタンをそのままハースに装入して電子ビームで溶解する。このため,VARは原料としてスポンジを一定比率以上混合して使用する必要があるが,EBはスクラップのみでも溶解可能であり,スクラップのリサイクルに適していることが特徴である。
図18.VARプロセス概念図

図19.EBプロセス概念図

写真5.丸型インゴット(VAR)

写真6.角型インゴット(EB)

(2)チタン粉末の製造
金属チタンは加工が難しく,歩留が低い材料であることから,合金元素を添加し,自由な形に成形して焼結・加工できるチタン粉末に対する期待は大きく,用途開発が積極的に展開されてきた。チタン粉末を原料とする製品の全チタン製品に占める割合はまだまだ小さいが,チタン粉末の需要は着実に増加してきている。
(1)チタン粉末の製造方法
代表的なチタン粉末としては,歴史的にはナトリウム還元スポンジチタンから製造されるスポンジファインがあったが,ナトリウム還元によるチタン製錬が休止し,その生産は終了した。現在,生産されている主なチタン粉末には,水素化脱水素(HDH)粉末とガスアトマイズ粉末があり,東邦チタニウムではスポンジチタンを原料として水素化脱水素(HDH)粉末を製造している。国内のチタン粉末生産については,従来HDH粉末が主体であったが,近年ガスアトマイズ粉の生産も増加している。
水素化チタン粉末(HDH粉末)はチタンの水素化脆性を利用して製造したチタン粉末で,原料にはスポンジチタンとスクラップ材料が使用でき,極低塩素粉末や合金粉末も製造されている。HDH法では図Ⅴ-1に示す通り,水素化脆化させたチタン原料を機械的に粉砕した後,加熱して真空下で脱水素することにより製造している。粉末粒子の外観は粉砕粉の特徴である角張った形状をしており,軟らかく不定形であるため成形性に優れている。そのため,金型成形やCIP(Cold Isostatic Pressing)を含む一般的な粉末冶金プロセスに適している。従来,HDH粉は粒子の比表面積が大きいため,酸素含有量が大きいのが欠点であったが,技術改善により酸素含有量を1,000ppm程度まで低減したチタン粉末も製品化できるようになっている。また,最近高純度のスポンジを原料とした高純度チタン粉末の製造も開始されている。
HDH粉末の製造方法はバッチプロセスで,小規模のプラントで製造が可能であることから,この10年間に中国ではHDH粉末の製造業者が増加し,生産量が急増してきている。中国で生産されたHDH粉末は労務費が安いこともあって低価格で販売されており,最近の品質向上と相まって,日本国内への輸入量は増加してきている。高品質を要求しない一般用途については,最近では国内産のチタン粉末の需要を脅かす状況となってきている。このため,ユーザーからの国内産のHDH粉末への要求は厳しくなってきており,今後の製造技術の向上と低価格化が不可欠な状況となってきている。
水 素 スポンジチタン ↓ チタンチップ → 水素化 → 粉砕 → 脱水素 → チタン粉
図18.水素化チタン粉の製造フローシート
一方,ガスアトマイズ粉末は棒状のチタン原料を高周波誘導コイルで直接加熱して溶解し,滴下流に高圧のアルゴンガスを吹き付けることにより製造している。ガスアトマイズ粉末の粒子形状は真球状であり,急冷凝固させるため,その断面は微細な組織となっている。粒度分布は比較的広く,通常製品の平均粒径は60μ程度であるが,近年溶解電力,コイル,ノズル形状,噴霧方法などの技術改善により,生産性の向上や細粒化が進んできている。また,ガスアトマイズ法は量産化に優れ,容器からの汚染がないため,酸素,炭素とも低含有率となり,高清浄度のチタン粉末が得られる。ガスアトマイズ粉末はその高い流動性を生かして,細粒粉末は金属射出成形(MIM)用の原料として,粗粒粉末は溶射用の原料として主に使用されてきた。また,高清浄度の特性も合わせて合金添加用の原料としても使用されてきている。さらに,CIPや金型成形用などの従来の粉末冶金技術にもその用途が広がってきている
写真7.HDHチタン粉末のSEM像

写真8.ガスアトマイズ粉末チタンのSEM像
