銀製錬

1.銀の歴史

    天然の砂金に比べて砂銀は産出量が少ないため,銀鉱から灰吹き法により銀が作られるようになるまで,銀の生産量は少なく,金と比較して銀は高価なものであった。紀元前4000年頃にアナトリア半島カッパドキアで粒状銀を製造したのが,最古の銀の製造の歴史で,当時文明が進んでいた小アジアやギリシャ周辺に銀が供給されていたようである。また,紀元前3000年頃に作られた最古の宝飾品がウル文明の古代シュメール人の墓より発見されている。

    一般に,銀は鉛の鉱石である方鉛鉱に含まれていることが多く,この鉱石を溶融して金属鉛を作ると、その金属鉛の中に銀も吸収されて、銀を含んだ鉛(貴鉛)が出来る。その貴鉛を加熱して酸化すると,鉛は酸化物となり,金属銀が残ることから鉛から銀を分離することができる。この製錬方法を灰吹き法と(Cupellation Process) 云うが,現在も金,銀の分析法や精製法として利用されている。紀元前2500年頃には,銀を含んだ鉛鉱石から灰吹き法で銀を作ったことを示す残渣がアルメニアで発見されている。紀元前1000年頃になると,南北アメリカ大陸で高度な銀加工技術を使用して,銀製品を作っていたと思われる。

    ギリシャ文明の発展に伴って銀の生産がアテネの近くのラウリオン鉱山に移り,紀元前8世紀頃にはギリシャの銀が小アジアから北アフリカ一帯にまで取引されていた。ラウリオン鉱山は紀元1世紀頃まで約1000年間生産が続いた最初の銀山である。その後,古代カルタゴ人がスペインで銀の鉱山を発見し,ヨーロッパの主要銀山となるが,ローマとカルタゴのポエニ戦争によってローマ帝国の支配下に移っている。ローマ人は銀製品の収集に熱心で,700-1200年頃にはハンガリー鉱山やドイツのランメルスベルグ,フライベルグの銀鉱山が開発され,ヨーロッパ中央部に生産地が移った。

    1世紀頃のインドのインダス文明では銀を飲み物用の容器に使われており,3世紀にはロンドンでローマ帝国の銀貨幣が鋳造された。7世紀には鋳造貨幣の基礎となった銀ペニーが使用されるようになった。12世紀に入ると銀貨の鋳造法が東ドイツのスターリングにより確立し,その時の銀含有率が92.5%であったことから,この濃度をスターリングと呼んでおり,1920年までイギリスではスターリングシルバーとして製造されていた。

日本国内の銀の生産については,中世以降日本は銀を産出していたが,15世紀頃から中国の銀の産出が減少したため,日本から中国に銀が輸出された。16世紀に入って灰吹き法が朝鮮から伝えられて,銀の生産量は増大した。日本国内の銀鉱山として,石見銀山がいち早く開発され,産出量も多かった。次いで,生野銀山,院内銀山などの銀山が開発された。

    アメリカ大陸では,1492年にボリビアのポトシ地区でアマルガム法が開発され,生産効率が向上して生産量も増加した。16世紀中頃には,新大陸に侵入した征服者達が鉄砲の弾丸用に鉛を現地調達する必要があったため,メキシコでサカテカス鉛鉱山が発見された。この鉱山の鉛には銀が多量に含まれており,銀の鉱山としても採掘された。1700年代になると1200年代の銀生産量の10倍に達するようになり,世界の銀の生産量の85%をボリビア,ペルー及びメキシコ等の中南米で生産していた。しかし,銀の生産量の増加は、銀価格の低下を招き,銀貨の価値が低下した。その結果,当時の多くの国が採用していた通貨制度である銀本位制が揺らぐことになった。産業革命で貿易黒字を膨大な金で保有していた英国は1816年に価格が安定している金貨を基本とする金本位制に移行した。

    1850年には米国のネバダ州でコムストック鉱山が発見され,1870年代になると生産量は更に数倍に増加した。1900年代に入ると新鉱山の発見と電解精製等の精錬法の改良が進み,生産量は数倍に増加して現代に至る。

写真1.型銀と銀ショット

写真2.銀電解

2.銀資源の埋蔵量と資源生産量

     銀資源の埋蔵量と資源生産量(2015年と2016年)を表1に示す。銀の埋蔵量はペルーが世界最大で,次いで豪州,ポーランド,チリ,中国等の埋蔵量が多い。世界の銀埋蔵量は57万トンである。資源生産量(採掘量)はメキシコが最大で,ペルー,中国も多いが,更にチリ,豪州,ロシア,ポーランド等も生産量が多い。

表1.銀資源の埋蔵量と採掘量

3.銀の生産量

    銀のリサイクルを含めた国別加工量を表2に示す。世界最大の銀加工国は中国で,年間6,000tの銀を加工している。次いで,米国,インドで,日本も3,000~4,000t程度を加工している。ドイツ,イタリア,メキシコ,タイ等も銀の加工量は多い。2017年度は世界全体で31,652tであった。

4.銀の物性と用途

① 銀の物性

 銀(Ag)の原子量は 107.8682で,融点は961.78℃,密度は10.49g/㎝3 である。また,電気抵抗率は15.87nΩ・mで,熱伝導率は429W/(m・K)  電気伝導率,熱伝導率及び可視光線の反射率はいずれも金属中で最大である。金に次いで延性及び展性に富み,加工性に優れる。

 ② 用途

 銀は工業的に広く利用されている。従来,写真の感光材としての用途が主体でであったが,フィルムカメラからデジタルカメラへの移行によって,近年使用量は激減している。フィルムに代わって太陽電池用のソーラーパネルの用途が増加傾向にある。銀は電気伝導率が高いので,電子機器の接点材料としても用途も多い。また,銀イオンはバクテリアなどに対して極めて強い殺菌力を示すことから,殺菌剤としての用途も増加してきている。医療用途として,歯科医療における比較的安価な義歯用の銀合金として使用されている。亜鉛,インジウム,パラジウム等の銀合金としてロストワックス鋳造で歯科合金は作られている。また,可視光線の反射率が金属で最も高いことから,鏡や反射フィルムなどの用途にも多用される。

 ③ 需給バランス

 2017年の銀の鉱山生産量は26,502tで,中古銀スクラップのリサイクル量は全生産量の14%に相当する4,296tであった。需要の内で現在最も多いのは,電気・電子用の用途で,接点材料として年間7,000~8,000t使用されている。次いで,宝飾品の用途に年間6,000~7,000t使用されており,コインや銀地金としての需要も多い。かつては,写真のフィルム用に使用された銀量が多かったが,現在は大幅に減少してきている。最近では,太陽電池用の銀の使用量も増加傾向にある。2017年の年間の銀需要量は31,652tであり,ここ数年ではやや減少している。

表3.銀の需給バランス推移

5.銀価格

 2000年からこれまでの銀の国際価格の推移を図1に示す。2000年~2005年に5US$/toz前後の価格であったが,2005年以降価格が上昇し,2011年には年平均35US$/tozまで達した。その後,価格は下落したが,15~20US$/toz程度の価格で推移している。この間に銀価格はおよそ3倍に上昇している。

図1.国際銀価格推移

6.銀の製錬技術

 銀は金と反応挙動が類似するため,両金属とも濃縮工程は共通で,水銀と反応させるアマルガム法,シアンと錯イオンを形成させる青化法や鉛に吸収させる灰吹き法等の製錬技術が利用されてきた。灰吹き法(南蛮吹き法)は,古代に銀を含む方鉛鉱の製錬において開発された貴金属の濃縮技術である。方鉛鉱を還元溶錬すると,鉛中に金,銀などの貴金属が吸収される。その後,貴鉛と呼ばれる貴金属を含む金属鉛を分離して,酸化すると,鉛は酸化鉛となり,金,銀などの貴金属はそのまま金属状態で残り,分離精製できることから,現在も粗銀の製造方法として利用されている。

 また,金と銀の分離方法として,現在は硝酸により銀を溶解する方法,電解精製法,金を塩酸で酸化浸出する方法等が挙げられる。江戸時代の日本では,灰吹法で作った金を含む粗銀に鉛と硫黄を加えて溶融し,硫化銀を生成させて,金を残留させる方法で,金と銀を分離精製していた。

 水銀を使用するアマルガム法,シアンを使用する青化法や鉛に吸収する灰吹き法については,金資源と製錬技術の項に詳細を別途記載しているので,本稿では省略する。以下に,現在も銀の精製方法で利用されている銀電解精製法を説明する。

(1)銀電解精製法

 銀の電解精製はMoebius法と呼ばれる硝酸浴による電解精製法である。銀電解では樹脂状の純銀が負極に析出して,そのまま成長にすると電気的な短絡が発生するため,樹脂状に析出した銀をスクレーパーで機械的に搔き落しながら電解精製する方法である。また,金を含むアノード殿物の一部がアノードより脱落するため,製品の樹枝状銀への混入防止を目的として,アノードには袋を取り付けて,電解する。搔き落された樹枝状銀は溶融して,型銀に鋳造するか,水砕して粒状銀を作る。

<工業的な銀電解精製条件例>

 ① 電解液組成 Ag+ 40~60g/l,Cu2+ 12g/l,HNO3 4~10g/l

 ② 電槽 2400㎜L×630㎜W×1600㎜H,アノード15枚,カソード16枚

 ③ 陽極 400㎜L×520㎜W×20㎜t,アノード重量40㎏ 極間距離140㎜

 ④ 電解条件 温度:45℃,電流密度:250~350 A/m 2 端子間電圧:2~3 V 電流効率:90~98%

 ⑤ 電解電力:700 ~800kW・h/t,カソードAg品位:99.99%

 

粗銀  → 溶融 → 鋳造 → 銀アノード → 電解精製 → 電気銀(樹枝状) → 溶融 → 型銀

                                    ↓

                              電解殿物 → 金精製工程

                                           図2.銀の電解精製フローシート