PGM製錬

1.PGMの歴史

 白金族金属(PGM:Platinum Group Metals)とは,しばしば鉱物として一緒に産出し,共通する性質をもつ白金,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,オスミウム,イリジウムの6元素の金属グループを総称する。PGMの歴史としては,1735 年にスペインの海軍士官ウロアが白金を発見したのが最初で,南米コロンビア国のチョコ(Choco)地方ピント(Pinto)河畔で銀に似た白い金属の白金を発見して,本国に報告された。その記録では,白金は「ピント川の卑小な銀 (platina del Pinto)」と呼ばれており,元素名『Platinum』 の語源となっている.

 また,PGMの主要資源国として南アフリカとロシアの歴史が重要である。ロシアでは1825年にウラル山脈の東側の河川で白金鉱床が発見され,大規模な採掘が開始された。当初は民間企業による操業であったが,ほどなくロシア政府は白金資源を独占し,国営生産体制とした。しかし,白金の用途はまだ限られており,白金の需要は低調であった。そのため,白金市場の拡大に向けて1828年には白金硬貨を発行するが,ロシア国民は新たな白金硬貨を疑わしく思ってあまり普及せず,白金の需要は相変わらず低迷したままであった。ロシアの白金生産量は増加し,コロンビアからの白金供給も再開されていたため、白金価格は下落した。このため,白金硬貨は原料の価値が硬貨の額面価格を下回ってしまい,偽造硬貨が流通するようになったことから,ロシア政府は1846年に発行したすべての白金硬貨およそ16トンを回収した。その結果,国家の独占は廃止され、すべての白金在庫は英ジョンソン・マッセイ社に売却されることとなった。

 一方,南アフリカでは地質学者Hans Merensky氏が1924年に大規模な白金鉱床を発見し,翌年から白金鉱石の採掘が開始された。その当時,20社以上の鉱山会社がヨハネスブルク証券取引所に上場され,活発な白金資源の生産が始まった。20世紀初頭はロシアが世界の白金生産の90%を占めていたが,1954年には南アフリカが世界最大の白金生産国となった。しかし,白金事業は幾度もの経済的な困難に遭遇し,順調には発展しなかった。南アフリカの他に,ロシアやカナダからの白金生産も増加したために,白金は供給過剰となり,世界経済の大恐慌が重なったことで,1931年には白金価格が25ドルから4.5ドルに暴落した。そのため,南アフリカのPGM鉱山全体が18カ月の操業停止を余儀なくされたこともあった。

 また,現在のPGMの主要生産国は南アフリカとロシアであるが,それぞれの鉱山資源に特徴がある。南アフリカではPGMのほとんどがブッシュフェルト複合岩体中にあるクロム鉄鉱岩に含有されている。クロム鉄鉱岩の鉱体には下部よりUG1,UG2(Upper Group Chromitites 2)があり,その上に硫化鉱主体のMerensky Reefが存在する。UG1や下部のクロム鉄鉱岩の鉱体にも低濃度のPGMは含まれるが,現状UG2とMerensky ReefのみがPGM鉱として採掘され,PGM製錬所にて製錬されている。PGM製錬所では白金とパラジウムが売上の中心で,クロムは製錬されていない。尚,クロム資源の鉱山はPGM鉱山とは異なり,別個に採掘され,製錬されている。南アフリカに賦在するPGM含有する資源は多いが,近年UG2中のPGM濃度が低下する傾向があり,経済的に採掘・選鉱コストが増加する傾向が見られる。

 一方,ロシアの場合は硫化銅・ニッケル鉱に含有するPGMを精製したもので,主にノリルスク・ニッケル社が生産している。ノリルスク・ニッケル社はニッケル・銅が主要生産物であり,PGMはあくまでもニッケル・銅製錬の副産物である。その他,カナダのSudbury鉱山の鉱石もニッケル・銅の硫化鉱にPGMが含有されている。

 2014年の白金の鉱山生産量は146トンで,南アフリカが65%,ロシアが15%を占め,ジンバブエや北米の鉱山を含めると97%を占有する。生産企業レベルで見ても,Anglo American platinum(南ア),Impala platinum(南ア),Lonmin(南ア),Norilsk Nickel(ロシア)の4社の寡占状態にある。 続いてパラジウムの2014年の鉱山生産は188トンで,このうちロシアが44%、南アフリカが31%、ジンバブエや北米を含めた4つの国・地域では96%であった。企業レベルではNorilsk Nickel(ロシア),Anglo American platinum(南ア),Impala platinum(南ア),Lonmin(南ア),Stillwater(米国) Vale S.A.(ブラジル)の6社で世界のパラジウム生産の80%以上を占めている。従って,PGMの資源及び資源生産は南アフリカとロシアが占有しているため,製品の安定供給には不安が残る。

2.PGMの資源埋蔵量と資源生産量

 PGMの埋蔵量と2016年度の白金とパラジウムの資源生産量を表1に示す。PGMの埋蔵量はロシア,南アフリカ,ロシア,ジンバブエに多く,世界全体で67,000トンが確認されている。特に,南アフリカの埋蔵量が多い。2016年の白金の資源生産量は南アフリカ120トン,ロシア23トン,ジンバブエ13トン及びカナダ9トンで,世界全体で172トンであった。一方,パラジウムの資源生産量は,ロシア82トン,南アフリカ73トン,カナダ23トンで,世界全体で208トンであった。従って,PGM資源の埋蔵量と生産は南アフリカ,ロシア,ジンバブエに偏っており,特に南アフリカに多い。                             出展 : U. S. Geological Survey,Mineral Commodiyty Summaries 201

表1.PGMの資源埋蔵量と白金及びパラジウムの資源生産量

3.PGMの需要と供給量

(1)白金の需要と供給

 2013~2017年の世界の白金需要と供給量推移を表2に示す。2017年の世界の白金供給量(生産)は 242tで,この5年間で大きく変わっていない。資源生産量が多いのは,南アフリカで132t,次いでロシア22t,ジンバブエ11t,北米(カナダ,米国)11tとなっている。自動車の排ガス触媒からのリサイクルは37tで,宝飾品のリサイクルは21tであり,リサイクル率は全白金供給量の24%に相当し,リサイクルの割合は大きい。

 一方,白金の需要は自動車排ガス触媒が101t,宝飾品は69tと多く,需要全体の70%を占める。その他,化学,電子機器,ガラス,医療用の用途があり,世界の需要合計は243tである。

表2.白金の世界需要と供給量

(2)パラジウムの需要と供給

 2013~2017年の世界パラジウム需要と供給量推移を表3に示す。2017年の世界のパラジウム供給量(生産)は 278tで,この5年間で徐々に増加してきている。資源生産量が多いのは,ロシアと南アフリカでそれぞれ85t,79tで,カナダ等の北米が28tであった。触媒からのリサイクルは67tと多いが,宝飾品のリサイクルは1.5tに過ぎない。これは宝飾品としての需要が少ないためである。

 パラジウムの需要は触媒が245tと多く,宝飾品は9tと少ない。代わって電子機器の接点材等の需要は28tと多い。その他,歯科需要は13t,化学の需要も16tと比較的多く,2017年度の需要合計316tであった。

表3.パラジウムの世界需要と供給量

写真1.白金粉

写真2.パラジウム粉

(3)ロジウムの需要と供給

 2012~2016年の世界ロジウム需要と供給量推移を表4に示す。2016年の世界のロジウム供給量(生産)は 32tで,この5年間で徐々に増加してきている。資源生産量が多いのは,南アフリカとロシアでそれぞれ19t,2.6tで,ジンバブエと北米が1.3t,0.7tであった。触媒からのリサイクルは8.5tと多い。ロジウムの需要は自動車排ガス触媒が25tと多く,ガラス,電気は2.5t,0.2tであり,2017年度の需要合計は31tであった。

表4.ロジウムの世界需要と供給量推移

(5)PGMの価格

 2000~2017年までの間の白金,パラジウム及びロジウムの国際価格の推移(US$/toz)を図1に示す。白金は2000~2011年までは500から1,700 US$/tozに急上昇し,その後1,000 US$/tozまで下落している。パラジウムの国際価格は2000~2011年までは200から600 US$/tozで増減していたが,2011年から価格が上昇し,現在960 US$/tozにまで上昇し,白金価格を若干上回っている。このように,パラジウム価格が高騰した理由は,ロシアの国家在庫の放出が終了して,需給バランスが極めてタイトになったことが挙げられる。また,ロジウムの値動きは激しく,2000年頃には2,000 US$/tozであったが,価格が下落し,2003年には500 US$/tozまで低下した。その後価格は急騰し,2008年には6,500 US$/tozまで上昇した。しかし,2009年には1,500 US$/tozまで急落し,その後1,000~2,000 US$/tozで推移している。

図1.白金・パラジウム・ロジウムの国際価格推移

4.PGMの製錬技術

(1)PGM鉱石の製錬法

南アフリカのPGM含有鉱石には,メレンスキーリーフ(Merensky Reef)やクロム鉄を含むUG2があり,図2に示すように電気炉により溶融し,転炉にて酸化してPGMを濃縮したマットを分離し,湿式処理によりPGMの金属元素を各々精製している。銅,ニッケルが濃縮される鉱石の場合には,副産物として回収するが,クロムは通常回収していない。南アフリカの場合には,クロムを生産する鉱山はPGM鉱山とは別に存在している。

PGM鉱石 → 溶融(アーク炉) → 酸化(転炉) → マット → 選鉱 → PGM濃縮粒子 → PGM精製

図2.PGM含有鉱石の処理プロセス概念図

 PGM製錬プロセスの例として,Anplats社で実施されているPGM鉱石の製錬プロセスのフローシートを図3に示す。Anplats社ではNi/Cuマットを回収して金属まで精製している。

図3.PGM鉱石の製錬プロセス(Amplats社)

 一方,ロシアのノリルスク・ニッケル社(Norilsk Nickel)やカナダのサドバリイ(Sudbury)鉱山の製錬所では,ニッケル・銅が主要生産物であり,PGMはあくまでもニッケル・銅製錬の副産物であるので,ニッケル・銅製錬工程で生成するPGM濃縮物を回収して,PGMを精製している。

 PGM精鉱からの貴金属成分の精製プロセスであるMattey Processを図4に示す。本プロセスでは,銀,金,パラジウム,オスミウム・ルテニウム,白金及びイリジウムの分離精製を行っている。塩酸浸出により,銀を塩化物として分離し,先ず金をMIBK(methyl isobutyl ketone)により溶媒抽出する。次に,パラジウムをLix64により溶媒抽出して塩化パラジウムとして分離する。更に,酸化蒸留して,オスミウム・ルテニウムを分離した後,SO2で還元して白金をTNOA(Tri-n-octylamine)にて溶媒抽出して回収する。白金を抽出した後,溶液を酸化してTNOAにてイリジウムを抽出すると溶液中にロジウムが残り,分離精製される。

図4.PGM精製プロセス(Mattey Process)

 PGM元素の内の白金とパラジウムの精製プロセス例をそれぞれ図5,6に示す。PGM濃縮残渣には金,銀などの貴金属が含まれていることが多い。そのため,先ず塩化浸出により,塩化銀として分離する。次いで,DBC にて金を溶媒抽出して除く。その後,TBP(トリブチルリン酸)にてパラジウム抽出を行い,パラジウムと白金を分離して,白金含有溶液は白金精製工程にて,精製する。パラジウムはアンモニア晶析し,焼成してパラジウムスポンジを得る。パラジウムはスポンジ状で販売されることが多いが,溶融してパラジウムインゴットとする場合もある。

図5.パラジウムの精製プロセス例

  パラジウム精製工程において,分離された白金含有溶液から白金を分離精製するプロセスを図6に示す。先ず,白金含有溶液をTBPで溶媒抽出して,セレンを分離して白金を濃縮精製する。次いで,白金含有溶液を苛性ソーダで中和する。更に,塩化アンモニウムと塩酸を添加して白金を晶析して,塩化白金酸アンモンを析出させる。析出した塩化白金酸アンモンを焼成すると白金スポンジが生成する。ユーザーによって白金スポンジを購入希望するので,そのまま製品とすることも多い。更に,溶融してインゴット型白金を鋳造して製品化する場合もある。

図6.白金の精製プロセス例

(6)リサイクル製錬

白金の製錬の原料として,使用済み白金製品のリサイクルは極めて重要である。日本で生産される白金のほぼ全てがリサイクル原料であるのが現状である。白金のリサイクルプラントとして有名なのは同和鉱業と田中貴金属が設立した日本ピージーエム社で,秋田県小坂に工場があり,自動車排ガス触媒等の白金,パラジウム,ロジウム等のPGM含有物を原料として図7に示すローズプロセスにより,PGM元素をリサイクルしている。その他,銅製錬所では他のリサイクル原料と一緒に製錬し,アノードスライムに濃縮して,PGM元素を精製してリサイクルしている。また,自動車排ガス触媒のリサイクル方法として,米国のMultimetco社では図8に示すプラズマアーク製錬プロセスが稼働している。鉄合金は銅合金と比較して融点は上昇するが,PGM元素は銅よりも鉄との親和力が強く,吸収能が高いことから,PGMの抽出剤に適している。PGMの精製時には鉄は容易に酸化除去され,酸化鉄として廃棄される。

図7.ローズプロセスの概要

図8.Multimetco社のプロセスの概要

  また,一般的なPGMリサイクルプロセスとして,銅製錬プロセスによるPGM濃縮リサイクルがある。本リサイクルプロセスでは,図8の銅電解スライムからの乾式貴金属精製プロセスにおいて,パーチング溶解処理によって白金族元素を溶解して,白金族元素の精製工程にて精製する。また,図9の湿式貴金属精製プロセスにおいては,金抽出後にPGM還元残渣より,白金族元素の精製工程において精製している。

図9.銅電解スライムの乾式貴金属精製プロセス例

図10.銅電解スライムからの湿式貴金属精製プロセス例

 その他,AusmeltプロセスやISA smeltプロセスによるPGMリサイクルもベルギーのUmicore社を筆頭に,国内では同和鉱業が実施している。AusmeltプロセスやISA smeltプロセスは豪州のCSIRO研究所が開発した同じ製錬プロセスであるが,実用化の段階で2つの企業グループに分かれたことから,名称の異なる2つの製錬プロセスとして展開している。本プロセスは銅製錬炉として開発されたが,近年亜鉛製錬炉や鉛製錬炉として数多く導入されている,また,前述の通りUmicore社では廃棄物のリサイクル炉としても稼働しており,図11に示すように自動車排ガス触媒等の集荷・処理によりPGMをリサイクルしている。

図11.Umicore社のリサイクルプロセス概念