銅製錬

1.銅の歴史

   銅の歴史は古く,紀元前10,000年頃には西アジアで使われていた。紀元前6,000年頃にはメソポタミア地域のシュメール人とカルディア人が金属銅を使用していた形跡があり,それがナイル河流域方面に流れて行ったと想定されている。当時,キルンを使って土器を作る技術が普及しており,高温で容易に還元される孔雀石(マラカイト鉱)をキルンによって還元して少量の金属銅が作られていたようである。尚,金属銅は柔らか過ぎて道具には適さないため,銅の修飾品や浮彫の銅板などが作られ,メソポタミアや古代バビロニア遺跡で出土している。紀元前4,000年頃以降には,錫を添加したブロンズ(青銅)を作る技術が開発され,銅器として生活に使われるようになった。

   青銅器は世界各地の古代文明の中で活用されており,多くの銅器が出土している。また,古代エジプトの医学書には,銅鉱粉末等を化膿した傷の殺菌や飲料水等の殺菌に使用することが書かれており,生活の中で色々な用途に活用されている。エジプト文明では銅のマラカイト鉱の緑色の粉末を化粧品として女性の目の周りに塗る習慣があり,銅が生活の中で様々に利用されていた。また,ギリシャ文明や古代ローマ帝国の中では青銅の像が数多く作られており,ローマ遺跡では銅の水管も出土している。青銅器文明はシルクロードを経由して中国に到達し,更に青銅技術が向上した。古代中国文明の商では極めて精密な青銅器が現在のロストワックス法に似た方法で鋳造され,埋葬品として使用されている。

   日本には,稲作文化の到来と同じ紀元前300年頃に,朝鮮半島を経由して青銅器がもたらされた。7世紀に新羅から来た技術者によって,武蔵国の黒谷銅山より自然銅が採掘され,産銅が始まったとされる。708年には年号が「和銅」に改元され,日本最初の貨幣「和銅開珎」が造られた。その後,奈良東大寺の大仏が建立されたが,ヒ素を3%程度含む銅を500トン程度使用していることから,日本国内産の銅が使われたと推測される。平安時代に入ると,採鉱が難しい深部に鉱体がある鉱山のみとなり,国内の産銅が進まず,宋銭の輸入が増えた。その結果,日本の主要通貨は中国銭の時代がとなり,鎌倉の大仏は青銅の宋銭を溶解鋳造して作られている。

   15世紀以降,日本の銅産業は活発化し,江戸時代に入って幕府が銅の生産に力を入れたことから,足尾鉱山や別子鉱山が開発された。1700年代のヨーロッパ全体の銅生産量が1,600トンであったが,日本の金属銅の輸出量は5,400トンに達したことから,江戸時代前半の日本は世界最大の産銅国であったと云える。

   その後,18世紀の産業革命によって,産銅業は大きく飛躍した。1750年頃に英国で開発された「反射炉」による銅製錬により,世界の銅の大部分を英国が生産することになった。19世紀に入ると,チリ国において多くの銅鉱山が開発され,英国を抜いて産銅世界一となった。また,英国にて浮遊選鉱技術が開発され,20世紀に入って様々な改良を経て実用化し,現在の産銅技術の基礎が確立した。また,電気技術の発展によって電線の必要性が増加し,銅需要が急増して,チリ国,米国やアフリカのザイール,ザンビアにて大規模な銅鉱山が開発され,現在の銅産業の形となった。

2.銅の資源

   銅の資源として,表1に示す種類の銅鉱石があるが,その中で黄銅鉱 (Chalcopyrite)が主要な製錬原料である。その他,輝銅鉱(Chalcocite),斑銅鉱(Bornite),銅藍(Covellite)及び赤銅鉱(Cuprite)なども製錬原料となっている。硫砒銅鉱(Enargite)については砒素濃度が高いため,そのままでは銅原料とならず,脱砒素処理を行った後に銅原料となる。また,銅鉱体の表土に存在する低濃度の銅鉱は,空気酸化されて酸化銅となって混在するが,従来はボタ山に廃棄されていた。しかし,溶媒抽出技術が開発され,硫酸浸出・SX-EW法が確立したことから,山元で電気銅を製造することが可能となり,現在では酸化銅鉱も貴重な銅資源となっている。世界の銅資源の可採埋蔵量は2017年度米国地質調査所の報告によると,世界全体で7億2千万トンである。世界最大の銅資源国は南米のチリ国で,世界の約29%を賦在している。次いで,豪州,ペルーなどに十数%の埋蔵量があり,米国,ロシア,中国,コンゴ,ザンビア及びカナダにも数%埋蔵されている。可採埋蔵量は経済的に採掘できる資源埋蔵量なので,今後アフリカのコンゴ,ザンビア地区で鉱山開発が進むと,更にこの地区の埋蔵量が増加することも想定される。                                                            出典 : U. S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries 2017

表1.銅鉱石の種類

写真1. 黄銅鉱

写真2.孔雀石(マラカイト鉱)

表2. 銅資源の埋蔵量

図1.銅資源の埋蔵量

写真3.南米のオープンピット銅鉱山

写真4.銅鉱山の浮遊選鉱設備

3.資源生産量

    資源生産量とは世界の銅鉱山で採掘される銅量である。表2に前述の米国地質調査所の2017年報告に記載されている2016年度の銅鉱の採掘量を示す。銅資源の採掘量は埋蔵量と関係してチリ,ペルーが多いが,銅需要が多い中国や米国での採鉱量が埋蔵量に比べて多いのが特徴である。世界全体の銅資源生産量は1,942万トンで,チリ国はその28.3%に相当する世界最大の産銅国である。チリ国の銅山はアタカマ砂漠とアンデス山脈に点在しており,その大部分が大型の露天掘り鉱山である。また,雨量が少ないこともあって,鉱体表土の酸化された低濃度銅鉱を硫酸浸出し,SX-EW法により電気銅の製造も実施している。
出典 : U. S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries 2017

表3.銅鉱石の採鉱量

図2.銅資源の生産量

4.銅の用途

   金属銅の特性は電気伝導度が高く,熱伝導性が高いことから,主に導電材や熱交換材として使用されている。また,伸延性,圧延性及び柔靭性に富み,各種金属との合金融合性に優れるため,多くの合金材料の母金属となっている。その他,比較的耐食性に優れ,金属イオンが殺菌性をもつことから,少量ではあるが,屋根材や滅菌用の細線材のような日用品としても使用されている。表4に銅の国内用途の概要を示す。

表4. 銅地金の用途

5.銅の需要と供給

     2016年の銅地金の世界需要量を表5に示す。また,1950年から2016年の銅需要の推移を図3に示す。世界の銅地金需要は1950年に約300万トンであったが,2000年には1,500万トンに増加し,2010年には1,900万トン,2016年には2,300万トンに増加している。世界の銅需要の増加の主因は中国の需要増加であり,1980年にはほとんど無かった需要が急増して,2016年には1,160万トンとなり,世界の需要の半分を占めるようになっている。
2016年の銅地金の世界生産量を表6に示す。銅需要の増加に対応して,中国の銅地金の生産量も急増しており,2016年には812万トンに達している。世界の銅地金の36%に相当する。その他,産銅国のチリや日本,米国などの銅地金の生産量が多い。
中国の銅需要の増加は国内の電線の整備によるものと推測されるが,他のBRICsと比較して銅需要が異常に増加しており,国策として需要を増加させていることも想定されることから,今後注意を要する。

表5.銅地金の需要

表6.銅地金の生産量

図3.世界の銅需要の推移

6.銅原料価格

   銅製錬原料には銅滓や銅スクラップもあるが,主要な銅原料は銅精鉱である。鉱山で採鉱,浮遊選鉱によりCu25~35%に濃縮した硫化銅系の精鉱である。銅精鉱としては黄銅鉱 (Chalcopyrite CuFeS2)が主体であるが,鉱体によっては輝銅鉱 (Chalcocite Cu2S), 斑銅鉱 (Bornite Cu5FeS4) 及び銅藍 (Covellite CuS)も含有されている。酸化銅や炭酸銅系の鉱石については,製錬所には販売されず,山元で湿式製錬(SX-EW法)されることが多い。
銅精鉱の売買価格は鉱山と買鉱製錬所の間での契約交渉によって決まる。交渉する買鉱条件は以下の通り,条件採収率,製錬費 T/C,精製費 R/C及びペナルティで,銅精鉱に含有する金属価格より,T/C, R/C及びペナルティを除いた価格にて取引されている。近年,中国の銅需要の増加を背景に銅精鉱の需給バランスがタイトになって鉱山側が有利となり,製錬費 T/C,精製費 R/Cが低下する傾向があり,銅製錬所の収入が低下している。銅精鉱を購入して製錬する買鉱製錬所の収入は,製錬費 T/C,精製費 R/Cの他,実採収率と条件採収率との差量(採収差益)しかないため,買鉱条件の悪化により事業収益が減少している。そのため,日本の銅製錬所は積極的に貴金属スクラップを集荷してリサイクルを行い,収益改善を図っている。また,海外の銅鉱山に投資して,銅精鉱の安定購入を図ると同時に,鉱山事業収益の分配を確保する傾向も見られる。買鉱条件は毎年の交渉によって変動するが,最近では金属銅建値が700千円/t-Cuの場合でも,製錬所の取り分は100千円/t-Cuより少なく,600千円/t-Cu以上が鉱山側の取り分で,銅精鉱を取引されており,鉱山の比重が大きいのが銅事業の特徴である。
<買鉱条件>
① 条件採収率
銅,金,銀それぞれに,濃度に応じで決められる採収率
採収率例 : 銅96.5%(Cu35%の時),金97.5%(Au2g/tの時)他
② 製錬費 T/C : Treatment Charge 銅精鉱1t当たりの溶融費用
③ 精製費 R/C : Refining Charge 採収銅1t当たりの粗銅精製費
採収金,銀 1toz当たりの粗金,粗銀の精製費
④ ペナルティ : 銅精鉱に含まれる不純物元素濃度に応じたペナルティ(As, Sb, Bi, Hg他)
例)砒素が2,000ppmを越えた場合,100ppm当たり1 US$のペナルティ等
<原料評価>
銅 :含有濃度×条件採収率①×LME銅価格
金 :含有濃度×条件採収率①×London Au価格
銀 :含有濃度×条件採収率①×H&H Ag価格
⑤ 原料評価合計
⑥ 銅精鉱の買鉱価格 ⑤-②-③-④
また,銅精鉱の海上輸送費(CIF)は鉱山から製錬所までの船賃で,鉱山側が負担する費用ではあるが,製錬所の位置,船賃の変動等も価格決定のための交渉項目となる。(運賃例:30$/t-精鉱)

7.銅製錬技術の歴史

    銅製錬プロセスは乾式製錬法と湿式製錬法に大別される。乾式製錬技術による銅の製造が主体であるが,近年湿式製錬法による銅製造も増加し,全体の生産量の21%を占めるようになってきている。
乾式製錬法としては,16世紀にドイツ式還元製錬法が普及した。硫化銅鉱を焙焼して鉄を二酸化鉄に酸化し,溶鉱炉にてコークスで一酸化鉄に還元して,珪酸と結合してスラグとして,硫化銅マットと比重分離する方法である。その後,18世紀には粉状の銅精鉱の大規模な製錬法として,反射炉法が英国で開発され,世界的に普及した。
日本では,日本初の貨幣「和同開珎」が作られた700年頃には床式還元製錬法で銅が作られていたが,16世紀に入ると山下吹き製錬法が開発され,それを量産用に改良した真吹き製銅法が長く使用された。1880年代に入ると,別子銅山,足尾銅山に相次いで溶鉱炉が導入され,1893年には転炉,電解精製設備が導入された。1949年にオートクンプ社ハルヤワルタ製錬所で自溶炉法が企業化し,1956年には古河鉱業㈱足尾製錬所に導入された。その後,日本鉱業㈱佐賀関製錬所,日立工場,住友金属鉱山㈱新居浜製錬所,三井金属鉱業㈱玉野製錬所,同和鉱業㈱小坂製錬所に連続して導入され,現在でも国内では主要な銅製錬技術となっている。
湿式製錬法には,銅鉱石を硫酸で浸出して,溶媒抽出により濃縮し,電解採取によって電気銅を製造する製錬法がある(以下,本製錬プロセスをSX-EW法呼ぶ)。SX-EW法は1960年代に開発された溶媒抽出技術の進歩により実用化した技術で,選鉱工程が不要で,処理工程が少ないことから,低コストで銅地金が生産可能であるが,主要な銅鉱石である黄銅鉱(Chalcopyrite)は処理できず,雨の多い地域には適さない等の制約がある。(詳細はSX-EW法の項を参照。)
尚,湿式製錬法でも鉄によって銅を置換析出させる反応(セメンテーション)による銅製造法は既に8世紀のスペインでも実施されていた。当時,銅鉱山内にできた硫酸銅溶液に鉄板を浸漬してセメンテーション反応により,低品質の金属銅を作っていたとされる。このセメンテーション法は現在も小規模に銅を回収する技術として実施されているが,回収銅の品質が悪いため,銅製錬原料として処理されており,製品にはならない。

8.乾式製錬法
   現在実用化されている乾式製錬法を表7に示す。最も導入されている製錬法はFlash Smelting Process(自溶炉法)で,直接製銅法,INCO法を加えると世界の半分程度の銅を製造している。リサイクル炉としての利用が多いが,ISAsmelt法,Ausmelt法も近年増加している。ISAsmelt法とAusmelt法は豪州の国立研究所「CSIRO」で開発されたSirosmeltランスにて製錬する同じ製錬法で,銅製錬だけでなく,鉛,亜鉛,リサイクル材料等の製錬炉として利用されている。また,Teniente法は6%,三菱法も5%程度を占めている。また,近年需要が増加し,製錬所が増加している中国で開発された底吹き製錬法も中国の数か所の製錬所に導入されており,寄与率は5%を占める。その他の製錬炉としては,反射炉,電気炉,溶鉱炉などがあるが,製錬量は少ない。
   銅製錬プロセス例を図4に示す。自溶炉法の場合には,フローシートに示す通り,銅精鉱を自溶炉で製錬して銅マットを作り,更に転炉にて酸化吹錬して粗銅に精製している。通常,銅マットの銅濃度は50~70%で,マット中の銅濃度が上がるとスラグ中の銅濃度は上昇する。粗銅には酸素が過剰に含有されているので,精製炉で還元されてアノードに鋳造され,電解精製により電気銅が製造される。一方,直接製銅法のFlash SmeltingやTeniente法では,粗銅が得られるため,転炉は使用せず,精製炉にて精製,還元後にアノードに鋳造され,電解精製される。しかし,直接製銅法では高濃度の酸化銅を含むスラグが発生するため,金属銅を回収するための還元炉が別途必要となる。また,主要な製錬炉の自溶炉,三菱法,Ausmelt炉及びNoranda炉の概念図を図5に示す。
   <製錬反応>
自溶炉,S炉の反応 : CuFeS2 + SiO2 + O2 → Cu2S・FeS + 2FeO・SiO2 + SO2
転炉の反応  : Cu2S・FeS + SiO2 + O2 → Cu + 2FeO・SiO2 + SO2
C炉の反応  : Cu2S・FeS + CaO + O2 → Cu + 2FeO・CaO + SO2
Outotec直接製銅炉 ,Teniente炉の反応: CuFeS2 + SiO2 + O2 → Cu + 2FeO・SiO2 + SO2

                                           図4.銅製錬プロセスフローシート例
1)自溶炉法フローシート
銅精鉱 → 自溶炉 → 転炉 → 粗銅 → 精製炉 → アノード → 電解精製 → 電気銅

2)三菱プロセスフローシート
銅精鉱 → S炉 → C炉 → 粗銅 → 精製炉 → アノード → 電解精製 → 電気銅

3)底吹きプロセスフローシート
銅精鉱 → 底吹き炉 → 転炉 → 粗銅 → 精製炉 → アノード → 電解精製 → 電気銅

4)ISA smelt(Ausmelt)プロセスフローシート
銅精鉱 → ISA炉(酸化)→ISA炉(還元)→ 粗銅 → 精製炉 → アノード → 電解精製 → 電気銅

5)Tenienteプロセスフローシート
銅精鉱 →Teniente炉(酸化) → 粗銅 → 精製炉 → アノード → 電解精製 → 電気銅
           ↓          ↑
         還元炉    →   粗銅

図5.自溶炉プロセスの概念図例

図6.PS転炉の操業概念図

表7. 世界の乾式銅製錬技術一覧

図7.銅製錬プロセスの概念図

9.湿式製錬法
   8世紀のスペインでも,銅鉱山内にできた硫酸銅溶液に鉄板を浸漬してセメンテーション反応により,低品質の金属銅を作っていたとされるが,このセメンテーション法は湿式製錬技術の一つであり,現在も小規模に低品位銅を回収する技術として普及している。尚,セメンテーション法で回収された銅は,銅製錬原料として処理されており,直接銅製品にはならない。
   1960年代には溶媒抽出技術が開発され,本格的に金属銅を製造する湿式製錬技術が米国で確立した。この湿式製錬技術はSX-EW法と呼ばれ,低コストの山元製錬法として近年急速に普及してきている。最初のSX-EWプラントは1968年に米国のRanchers Bluebirdおいて稼働した。本プラントはHeap Leachingによる硫酸浸出で,溶媒としてLIX64N,希釈剤にMap470Bが使用されたが,既に閉鎖されている。その後,米国だけでなく,中南米のメキシコ,ペルー,チリ及びアフリカのコンゴ等で設置され,SX-EW法で製造される銅地金が急速に増加した。特に,南米のチリ,ペルーには数多く設置され,2017年度には世界全体の銅地金生産量の21%をSX-EW法で製造されるようになっている。

   湿式製錬(SX-EW法)
低品位酸化鉱 → 硫酸浸出 → 溶媒抽出 → 硫酸銅溶液 → 電解採取 → 電気銅

   銅地金の製造に必要なコストは,通常の選鉱・製錬では70~80¢/lbのところ,SX-EW法では採鉱と選鉱コストが不要なことから40¢/lbに大幅に低減され,低コスト製造法として,急速に普及してきている。しかし,SX-EW法の課題は硫酸浸出にあり,リーチングサイトは屋外にあるため,降雨が多い地域では本SX-EW法は適用が困難である。降雨の多い地域にリーチングサイトを設置した場合には,上屋を作らない限り,雨水で浸出液中の銅濃度が低下する操業トラブルが生じることと,雨水で希釈された浸出液がリーチングサイトより漏洩する等の環境汚染の可能性も増加する。近年東南アジアで中国の企業が開発したSX-EW法のプラントの下流で環境汚染が発生しているとの情報があるので,SX-EW法の導入時には注意を要する。
   SX-EW法には対象の原料に応じて異なる硫酸浸出法がある。硫酸浸出速度が遅いために,浸出方法が重要であり,次に示すような方法に分類される。
 ① Dump Leaching:ずり山(酸化された低濃度銅の鉱体表土等の山)に上部より硫酸を散布して下部
より浸出液を回収し,循環浸出することにより時間をかけて銅を浸出する方法。
 ② Heap Leaching(Thin Layer Leaching):低品位酸化銅鉱等を畝状に堆積し,上部より硫酸を散布
して銅を浸出する方法。Dump Leachingと比較して浸出が短期間(数か月)で完了する。また,事前に硫酸を塗布,混合して浸出を促進することもある。
 ③ In-Situ Leaching(In Place Leaching):採鉱が終了した坑内等に硫酸を注入して,下部より浸
出水を回収することにより,坑内に残った低濃度の銅を回収する方法。
 ④ Mine Water :坑内水に銅が含まれる場合に,坑内水を集めて銅を回収する方法。
 ⑤ Agitated Tank Leaching :浸出槽に原料を入れ,硫酸を注いで撹拌により短期間で浸出する方法。
 また,溶媒抽出については,溶媒の研究も進んでおり,LIX,ACORGA等の改良品が使用され,希釈剤としてはChevron, Phillips, Shellsol, Hydrosol等の改良品が使用されている。溶媒抽出設備については,溶媒と硫酸溶液を接触させるための撹拌部分と溶媒と硫酸を分離させるために静置させる部分が必要で,溶媒抽出と逆抽出の2槽が必要である。また,浸出液中に含まれる不純物により溶媒と水溶液の間に中間層が生じることが多く,溶媒と水溶液の分離を阻害することがあるので,中間層の管理に注意を要する。
 通常,銅鉱の種類によって硫酸浸出速度が異なっており,赤銅鉱 (Cu2O),孔雀石 (CuCO3・Cu(OH)2)のような酸化銅や炭酸銅系の銅鉱は容易に硫酸浸出できる。輝銅鉱 (Cu2S)や 銅藍 (CuS)は硫酸浸出速度が遅いが,工業的に硫酸浸出が可能である。しかし,銅精鉱の主体である黄銅鉱 (CuFeS2)は硫化鉄成分が硫酸浸出を妨害するため,硫酸浸出速度が極めて遅く,そのままでは工業的な銅の浸出は困難で,現在のところ黄銅鉱のSX-EW法のプラントは稼働していない。バイオリーチング技術開発と称して,バクテリアによる硫黄酸化や鉄酸化の促進技術が研究されているが,これまでに工業化可能なバクテリアは見つかっていない。既存のバクテリアにより硫化鉄を酸化すると,水溶液の硫酸も増加してpHが低下し,バクテリアの活動が低下することから,浸出反応を促進できないのが,工業化できない理由である。黄銅鉱の硫酸浸出が可能になると,乾式製錬から湿式製錬に銅事業が大きく転換することから,技術的に困難は伴うが,バイオリーチングの今後の研究に期待したい。

写真3.ダンプリーチング操業

写真4.溶媒抽出操業