マンガン製錬

マンガン概要

 マンガンは原子番号25の元素で,地表や海水、淡水など地球上に広く分布している。銀白色の金属で,マンガン族に属する遷移元素。空気中では酸化被膜を生じて、赤みがかった灰白色となる。弱酸には容易に溶解し,淡桃色の2価のマンガンイオンを生成する。比重は7.2、融点は1246 ℃で,酸(希酸)には易溶であり、淡桃色の2価のマンガンイオン Mn2+を生成する。

 マンガンの一番有名な用途として,マンガン乾電池やアルカリ乾電池の正極に使用されている。また,マンガン鋼の原料や,フェロマンガンとして鋼材の脱酸素剤・脱硫黄剤などに使用されている。その他,耐磨耗性,耐食性,靭性性能を改善するため,鉄鋼に合金用のマンガンが添加されている。

 

マンガン資源

 マンガンは酸化鉱や炭酸鉱としては埋蔵されており,軟マンガン鉱(MnO2)、菱マンガン鉱(MnCO3)などとして産出する。戦前では日本国内でも製鉄用に採掘され,第二次世界大戦中にはおもに乾電池用としてマンガンを採掘する鉱山が多数開発された。特に乾電池用のマンガン鉱山は日本各地で見られ,丹波地方等の近畿地方に零細鉱山が集中して存在していた。しかし,1950年代以降の鉱物資源の輸入自由化によって,多くの鉱山が1970年代までに閉山に追い込まれた。北海道の上国鉱山や大江鉱山などは規模が比較的大きいことから1980年代まで存続したが,現在では岩手県の野田玉川鉱山において宝飾品材料としてバラ輝石が限定的に採掘されているほかは皆無である。

 マンガン資源は日本国内において産業上の重要性が高いものの,輸入先に偏りがあり供給構造が脆弱である。そのため,国内消費量の最低60日分を国家備蓄している。日本海溝等の深海底には,マンガン,鉄などの金属水酸化物の塊であマンガン団塊(マンガンノジュール)として存在している。しかし,コストの関係で試験的な採取に留まっている。

 世界のマンガンの可採埋蔵量と資源生産量とを図1,2に示す。南アフリカや豪州に資源が多い。

マンガンの物性と用途

 マンガンは比較的反応性の高い金属で、粉末状にすると空気中の酸素、水などとも反応する。単体金属マンガンは磁性を持たないが、合金には強磁性を示すものがあり、さらに化合物にはさまざまな磁気的性質を示すものがある。

 マンガンはそのほとんどが製鋼用に使用されている。脱酸・脱硫剤、強度及び特性向上を目的として鉄鋼添加剤として、FeMn及びSiMnが使用される。また、マンガン鉱石はFeMnの原料となる他、脱酸・脱硫剤,鉄鋼添加剤として転炉に投入される。マンガン需要は粗鋼生産の動向に大きく左右される。

 マンガンを含む普通鋼,特殊鋼等は社会生活の中で幅広く使用されている金属素材の生産動向に影響されている。金属マンガンはアルミニウムに合金元素として添加することで,アルミニウムの硬度及び強度が向上し,アルミ缶や屋根材,サイディング,パネル等の建築材,カラーアルミや電球口金に使われている。

 原料の二酸化マンガン鉱石を粉砕し,一酸化マンガンへの還元,硫酸への溶解,精製を経て得られる高純度硫酸マンガン液を電気分解し製造される電解二酸化マンガンはアルカリ乾電池やLIB正極材の原料に使用される他、フェライト磁石用材料として磁気諸特性の改善のために添加されている。また、四三酸化マンガンはLIB正極材の原料等に使用される。

 過マンガン酸カリウムは酸化剤として、酸化還元滴定用の分液試薬や有機合成、殺菌、漂白、火薬の原料、医薬品などの用途に広く用いられている。例えば、飲料水中の有機物や臭気の除去、マンガンや鉄の除去にも利用される。

マンガン原料・製品の輸出入価格

 マンガンの原料・製品の輸出入価格の推移を下表に示す。近年,マンガンの原料・製品価格は全般に上昇傾向にある。

マンガンの製錬プロセス

 マンガンの製錬プロセスには次の3種類の方法がある。
  ①電解法 ②還元溶融法 ③テルミット還元法
 工業的には①電解法が大勢を占めている。電解法は鉱石を酸化焙焼して酸化マンガンにした後、硫酸に溶解し、電気分解することで陰極板に金属マンガンを電析させる。

 ②還元溶融法は電気炉にて鉱石をコークス・珪石等により還元して、金属マンガン(フェロマンガン)を生産する。③テルミット還元法は酸化マンガンをアルミニウム粉末で還元し、金属マンガンを生産する。

マンガンのリサイクル

 マンガンのリサイクルに関するデータは存在しない。合金鋼のスクラップの一部はリサイクルされていると推測されるが,リサイクル量に関するデータは存在しない。
 電池に使用しているマンガンについてはリサイクルには適するが,マンガンの電解採取は操業条件が狭く,電流効率が低下しやすいため,これまで工業規模でリサイクルが実施されていない。しかし,将来マンガン系の正極材のリチウムイオン電池が電気自動車に使用されると,工業的にリサイクルされる可能性がある。