バナジウム製錬

バナジウムの概要

 バナジウムは原子番号23のバナジウム族元素で,元素記号は『V』と表示され,地殻の表層部には重量比で0.015%程度存在し,23番目に多い元素である。また,バナジウムは銀白色の金属で,金属バナジウムやバナジウム合金は電子材料,被覆材,耐熱材,超合金,航空機の部材などに使用されている。また,鉄鋼,チタン,アルミニウムなどの物理特性の向上に使用されている。

バナジウムの歴史

 1801年 スペイン人のA・M・デル・リオがメキシコで最初に発見し,クロムに似た色調から「パンクロミウム」と名付けたが,化合物を加熱すると鮮やかな赤色になることから後に「エリスロニウム」と改名した。

  1830年 「エリスロニウム」が様々な美しい色に着色することから,スウェーデンのN・G・セフストレームがスカンジナビア神話の愛と美の女神バナジス(vanadis)にちなんで「バナジウム」と名付けた。

  1831年 ドイツのF・ヴェーラーによって,『エリスロニウム』と『バナジウム』は同じものと確認される。

  1925年 米国で金属カルシウムによる還元により,高純度の金属バナジウムの精製に初めて成功。     

バナジウムの物性

 塩酸、アルカリ水溶液、希アルコールには溶けず、硝酸、濃硫酸、フッ酸には溶け,銀白色の光沢を持っており、硬度が高い。また,融点が高く、耐熱性に優れている。

バナジウムの資源

 バナジウムの可採埋蔵量は,中国41%,ロシア22%,豪州17%,南アフリカ15%に分布している。資源生産量は中国が54%,ロシア24%,南アフリカ11%,ブラジル10%となっており,バナジウム資源大国は中国であり,中国の動向がバナジウムの需給には重要である。

 また,バナジウム資源は五酸化バナジウムとして使用されている量が多いが,その生産は中国が50%を占め,次いでロシアが20%,南アフリカ13%,ブラジル8%となっている。鉄鋼向けはFeV,触媒用は金属バナジウムが使用される。

   その他,バナジウム資源は鉱石だけでなく,重油や石炭の燃焼灰,重油脱硫時の廃触媒等に含有されるバナジウム等が主要な資源となっている。

バナジウムの用途

 バナジウムは鋼やチタン、アルミニウムなどの金属に添加することで,靱性,耐熱性,耐摩耗性を向上させることが可能となり,建築構造材,橋梁,工具など靱性,硬度などが求められる鋼材に含まれる。チタンとの合金は航空機やロケットなどに使用され,工業触媒として石油の脱硝、アルコールの酸化,硫酸製造,プロピレン樹脂合成などに幅広く使用されている。

<バナジウム合金> 

・高張力鋼,工具鋼  ・チタン,アルミニウム合金  ・耐熱,高強度の航空機材

<工業用触媒>

 ・五酸化バナジウム  ・メタバナジン酸塩  ・石油の脱硝,アルコール触媒  ・硫酸,プロピレンの合成触媒

五酸化バナジウムの需給

 五酸化バナジウムの国別生産量を図4に示す。バナジウムの生産量と同様に世界生産量の50%は中国であり,その他,ロシア,南アフリカ,ブラジル等の生産が多い。五酸化バナジウムの国地域別消費量は中国,西ヨーロッパ,米国等に多く,日本も7%消費している。

 日本で使用する五酸化バナジウムの輸入先を図5に示す。五酸化バナジウムの大部分中国より輸入されており,20%はタイから輸入されている。

 五酸化バナジウムの国地域別消費量を図5に示す。五酸化バナジウムの消費量は中国,西ヨーロッパ,米国等に多く,日本も7%消費している。

 また,日本で使用する五酸化バナジウムの輸入先を図5に示す。五酸化バナジウムの大部分中国より輸入されており,20%はタイから輸入されている。

バナジウムの製造法

 製錬原料となっているバナジウム鉱石にはバナジウム磁鉄鉱があるが,燃焼灰や廃触媒からのリサイクル量も多く,重要なバナジウム資源となっている。

 製錬・リサイクルのプロセスとしては,原料により含有成分が異なることから,プロセスは成分に応じて,適正なものを選定する必要がある。

 バナジウムのみを製錬する場合は,粉砕した原料に炭酸ナトリウムを混合して焙焼し,塩析によりメタバナジン酸アンモニウムを生成させる。その後,煆焼により五酸化バナジウムを生成させ,還元することにより,金属バナジウムを製造している。

 各種触媒のリサイクルも類似のプロセスとなるが,ニッケルやモリブデンを回収するためにより複雑な処理をしている。

まとめ

 バナジウムの生産は中国が中心なので,中国からの輸入は避けられないが,中国の動向に注力し,中国以外からの資源を安定して輸入可能な体制を構築する必要がある。そのためには,中国以外の複数のバナジウム資源の鉱山会社に投資して供給契約を締結し,安定した輸入体制を構築する必要がある。

 また,バナジウム資源は重油や石炭の燃焼灰や使用済み脱硫触媒等に濃縮することから,都市鉱山と考え,リサイクルを徹底し,バナジウムの資源確保を図ることも重要である。